『首相の蹉跌』を書いた清水真人氏に聞く--ポスト小泉の政治を「論理」で読み解く《09年上期ベスト政治書1位》
--『首相の蹉跌』を執筆された問題意識を教えてください。
政治ジャーナリズムは「情と理」のバランスが大事だと思っていますが、日本の場合、あまりにも情緒的なとらえ方をしすぎていた。もちろん、政治も人間の営みですから「情」で動くし、権力闘争や世代交代といったドラマは社会の縮図です。ただ、日本の統治構造は憲法、内閣法、国会法などのリーガルな枠組みを基礎に動いている以上、もう少し「理」、つまり、論理で読み解くべきです。
特に、1990年代の政治改革は統治構造を根底で大きく変えた。最も大きかったのが衆議院への小選挙区制導入です。政党交付金制度も創設し、バブル崩壊で企業献金が減って資金の流れも大きく変わった。
制度改革で確実に自民党の派閥が衰え始めた。派閥が隆盛を極めたのは、一つの選挙区で必ず複数候補を出す中選挙区制だったからです。
中選挙区時代の自民党は派閥間で激しく競争していた。世襲もあったけれど、実力があれば、党の公認とは関係なく出馬もできた。それが自民党の活力源だったのです。
小選挙区になった途端に、派閥の存在意義は薄れた。中選挙区時代は、選挙とカネと人事の三つをすべて派閥が持っていた。だが、公認候補者を1人しか出せない小選挙区制では、公認を決める党執行部に皆がなびく。カネも政党交付金が中心なので、総裁と幹事長の力が増す。唯一、派閥が手放さなかった人事も、小泉さんが「組閣人事は誰にも相談しない」と言って、秩序をぶっ壊した。
小泉さんは小選挙区制に最も反対した人ですが、首相になると、ゲームのルールを利用し尽くした。
まず、小選挙区では、党首が選挙の顔となる。だから、総理大臣が政策決定・運営でリーダーシップを発揮して世論の支持を得なければならない。そこで、官邸主導の舞台装置として、竹中平蔵さんをトップとする経済財政諮問会議をうまく使った。