高校生向けだが、中学生も参加

ユニリーバ・ジャパンは、2014年から「ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・スクール」という、若い世代の未来創造を応援するプログラムを実施している。同社のブランド「リプトン」と「こども国連環境会議推進協会」が連携し、中高生が「食」の課題解決プランを立案して実行していく企画などを展開してきた。

17年には、同プログラムの一環で高校生向けのインターンシップも開始した。その原点は、同社の取締役人事総務本部長、島田由香氏の学生時代の体験にさかのぼるという。

「中学生の時に学校で『適職診断』が行われたのですが、その結果に疑問を持ちました。いくつかの質問に答えただけで『あなたはこういう人だからこの仕事』と断定的な形で1つの職業が示されていて、ほかのオプションがないことに違和感を抱いたのです」

そんな体験もあって、若い世代が世の中にある仕事の種類や面白さなどを知る場を設けたいと常々考えており、17年に「高校生インターンシップ」を実現したという。

18年の「高校生インターンシップ」。ディスカッションやワークショップに取り組む

島田氏も毎年参加しており、高校生たちが自らの経験や卒業後の進路などについてディスカッションをし、自身の能力をどう将来に結び付けていくかを共に考えていくという。そのほか、社員が仕事の種類や働き方を紹介したり、心理学者や教育学者らと独自に開発した、自己肯定感を高めるワークショップなどを行ったりしている。

例年、参加者や保護者の満足度は高く、「働くことに前向きなイメージが持てなかったが、考え方が変わった」「リーダーシップやスキルがなければ駄目だと思い込んでいてそれがプレッシャーだったけど、自分らしくあればいいと思えるようになってほっとした」といった感想が多く聞かれるという。「毎年参加してくれる子もいるんですよ。内容は高校生向けですが、中学生も受け入れていて、例年10人弱の中学生も参加しています」と、島田氏は笑う。

20年8月の高校生インターンシップは、コロナ禍の影響で初のオンライン開催となったが、例年と遜色のない実施ができたという。

「オンラインだとコミュニケーションが取れないと思い込む人も多いですが、『触る』以外は全部できるんですよね。だから、触れ合いの要素がある内容を除きプログラムはとくに変更せず実施しました。参加者が得られる学びにも違いはなかったと思います」

20年の高校生インターンシップは初のオンライン開催となった

オンラインならではの成果もあった。今までは会場の広さから最大80名と参加人数に制限があったが、今回は約200名の中高生が参加でき、地方や海外などさまざまなエリアからの参加も増えた。参加者からは「つながりが広がった」「たくさんの同世代の意見が聞けた」といった感想が多く集まったという。

「このままでは日本は駄目になる」

この高校生インターンシップをスタートした17年、同社は新卒採用制度も変えている。これもまた、島田氏が常々抱いていた企業の新卒一括採用への疑問が背景にあった。

「ある時期になると就職活動が一斉に解禁され、大学生はみんなリクルートスーツを着て企業訪問や面接に出かけていく。自分もやりましたが、内心『バカバカしい』と違和感だらけでした」

さらに、新卒採用に直接関わる立場となり、面接などで多くの大学生と接して「日本の危うさ」を実感した。

「誰かのアドバイスや本に書かれていることを丸暗記して、そのまま志望動機として話す。集合時間に遅れても、連絡一つよこさず、謝りもしない。人がいるところといないところで明らかに態度が違う。そんなびっくりするような学生を目にして、私たちは何のために教育制度を作り新卒採用をしているのだろうと思いました。大学の2、3年生になってからではなく、もっと早い段階から自分の人生を考え、それを誰かに伝えられるような機会がないと、日本は駄目になるとも感じました」

そんな思いから、いつでも自分の未来を考えることができ、いつでもエントリーができる「UFLP365」(ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・プログラム365)を導入した。UFLP365は、選考過程をすべてオンラインで実施するため、インターネットに接続できる環境であれば、一年中いつでもどこからでも受けられる。対象者も大学1年生から既卒3年以内と幅を持たせた。

また、一度不採用となっても、1年の期間を置けば何回でも応募することができる。応募者の意志で最終面接や入社のタイミングが選べるという点も大きな特徴。大学生の場合、入社は卒業後となるが、最終面接と入社の前に最大2年の期間を空けることができるので、この期間を活用して大学院への進学や海外留学などをすることも可能だ。

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「UFLP365」の選考過程。20年からすべての選考をオンライン化

「海外ではギャップイヤーなどがあるのに、日本は『ここを逃したら人生終わり』と焦ってしまう就活になっている。それは違うなと。自分のやりたいことを諦めないでほしいと思いこの制度を作りました。実際、留学をかなえた人や、再挑戦で採用となった人もいます」

UFLP365は「ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・スクール」とも連携しており、例えば高校生インターンシップの中でとくに優れた取り組みをした高校生には「U-PASS」という認定証を発行している。U-PASSを行使すれば、大学入学時から既卒3年までの間に、UFLP365の2次選考までが1回限りで免除されるという。

「もちろん優秀な人材を採れたらという意図はありますが、最終的にうちに来てくれなくてもいいと思っていて。U-PASSを通じて『自分は認められた』という感覚や何らかの自信を持ってもらえたらうれしい」

今の時代に必要な4つの力とは?

昨今キャリア教育の重要性が叫ばれているが、子どもたちが混沌とした時代を生き抜くために必要な力について、島田氏はこう考えている。

「そもそもキャリアとはラテン語で轍(わだち)という意味。振り返って初めて見える軌跡なんです。それを先に考えようとするから、こっちの選択のほうがよいのでは、これをやっておけばよかったのではと、いろいろ迷い悩んでどんどん不安になってしまう。スキルを身に付けるのもやるかやらないかの問題であって、必要なら後からできることです」

島田氏は、ICTも学ぶべきスキルではなく便利な道具だと考えている。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)は、今後さらに進化していくはず。弊社でも、効率化できる作業はデジタル化していき、それによって生まれた時間を生身の人間でなければできないことに充てるということをどんどん進めています。要は、ICTはあくまで便利な道具。使えるものは使うという姿勢で接すればいい。

それより大切なのは、自分はどんなものの見方をしているのかということを自身に問いかけ続け、自分が何に興味やパッションを持っているのかということに気づくような『自己認識力』。学生時代は、興味を深め試行錯誤してほしいですね。また、挫折したり落ち込んだりしても、そこから『じゃあ、どうするか』と考えて再び動き出せる『レジリエンス』も重要。弊社の採用でもこの2つをしっかり見ています」

また、同社は外資系企業ということもあり、日本人がいいアイデアやクリエーティブな力を持っているにもかかわらず、ディベートになると一気に劣勢になってしまう場面によく遭遇してきたという。

「日本人は、自分の考えを発信できる『表現力』と、相手の話をしっかり『聴く力』をもっと伸ばす必要があるでしょう。日本の教育水準の高さは世界の中でも誇れるものですが、暗記力を競うスタイルはもう古い。1人ひとりの意見がユニークで大切だということを学べる場を、義務教育の中にもっとつくれるといいですね」

自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓(ひら)き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる――。

これは新学習指導要領の前文にある記述であり、中央教育審議会の答申「『令和の日本型教育』の構築を目指して」の総論でも「急激に変化する時代の中で育むべき資質・能力」として改めて強調された内容だ。島田氏が指摘する「自己認識力」「レジリエンス」「表現力」「聴く力」の育成は、国が目指す「令和の日本型学校教育」の方向性とまさに合致しているのではないだろうか。

島田 由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長。1996年慶應義塾大学卒業後、パソナ入社。2002年米ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。08年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て13年4月取締役人事本部長就任。14年4月から現職。 高校2年生の息子を持つ1児の母親。日本の人事部「HRアワード2016」企業人事部門 個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP(R)トレーナー

(写真および図はすべてユニリーバ・ジャパン提供)