日本企業が新規事業で立ちすくむ「3つの壁」
ハイクオリティな製品やサービスを届ける力にかけて、日本企業は世界屈指のレベルにあるといえるだろう。ところが、その現場に「次の事業の種を探してほしい」と告げた途端、動きは鈍くなる。その理由について、上智大学特任教授の西口尚宏氏は3つの問題を指摘する。
「1つ目は、イノベーションを技術革新と捉える誤解が、今も根強く残っていることです。新しい技術を生むことと、それが顧客や社会に変化をもたらすことはイコールではありません。2つ目は、顧客が何を必要としているのかを探索する経験が乏しいことです。そして3つ目は、新しい提案が社内から出てきても、それを判断できる人が少ないことです」
特任教授
UCバークレーエグゼクティブエデュケーション日本代表
西口 尚宏氏
Startup Genome Japan株式会社 代表取締役社長、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒(MBA)。世界銀行グループワシントンDC本部などで計8年米国勤務。外資系コンサル会社パートナー、産業革新機構執行役員等を経て現職
もっとも、日本企業が顧客のニーズを軽視してきたわけではない。つくるべきものが決まっていれば、工程を改善し、精度を高めて提供する。この底力によって、多くの企業が顧客からの信頼を積み重ねてきた。問題は、これまでの成功モデルでキャリアを積んだ人が管理職や経営層となり、新規事業を判断する立場に就くことだ。
「既存事業であれば、過去の売り上げや市場規模などから計画を立てられます。一方、新規事業ではまず小さな仮説を立て、顧客の反応を確かめながら修正していく必要があります。ところが、探索や仮説検証の経験が少ないと、検証前の提案にも既存事業と同じ確実性を求めやすくなってしまうのです」
新規事業が生まれにくい、こうした構造の根本的な原因として、西口氏はアメリカを例に挙げ、日本との教育環境の違いを次のように指摘する。
「日本では教科書に書かれた内容を理解し、正しい答えを出すことが重視されてきました。一方アメリカでは自ら調べ、考えをまとめ発表し、他者と議論する経験を幼い頃から重ねます。正解があるかどうかにかかわらず、自分の意見を持ち議論する。そうした頭の使い方を、初等教育の段階から訓練しているのです」
「世界の知」と「異業種の対話」が、化学反応を起こす
「正解を出すこと」に慣れてしまった日本のビジネスパーソンが、自ら問いを立て、新しい価値を生み出す思考法を身に付けるには、再訓練(アンラーニング)が欠かせない。
そこで開設されたのが、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)エグゼクティブエデュケーションと提携した短期集中プログラム「Innovation Boot Camp(以下、IBC)」だ。主な対象は企業の役員や部長、若手幹部候補層で、シリコンバレー流の思考法やAI活用、関係者を巻き込む組織変革のアプローチなどを4日間で体系的に学ぶ超実践型カリキュラム。自らも講師を務める西口氏は、こう説明する。
「このプログラムにハイレベルな実践知をもたらすのが、提携先であるUCバークレーエグゼクティブエデュケーションです。同スクールの強みとしては、シリコンバレーで育まれた世界トップクラスのイノベーション研究と実践ノウハウが集積していることが挙げられます」
その知見を注ぎ込んだIBCのカリキュラムは、AIの戦略的活用やエコシステムの構築手法といった先端的なアプローチを学ぶだけにとどまらない。個人の適応能力の分析や、立場の異なる社内の関係者をどう説得し巻き込んでいくかといった、組織変革における泥くさいプロセスまで体系的に網羅しているのが特徴だ。
2026年度カリキュラム(予定)一覧。AI活用から組織運営におけるまで、イノベーションを起こすうえで必要な実践的な知見・ノウハウを体得する濃密な4日間となっている
「イノベーションは特定の個人の力だけで起きるものではなく、多様な才能の組み合わせと、仮説構築・検証の繰り返しによって生まれます。IBCでは、そうした新規事業を創出するための『頭の使い方』や『仲間づくりの仕組み』などといった実践的なノウハウに特化して、受講者に提供しています」
また、この実践的な場を牽引するのが、来日するUCバークレーエグゼクティブエデュケーションの名物教授陣だ。西口氏が「エネルギーの塊」と表現するように、常に教室中を動き回りながら圧倒的な熱量で受講生を引きつけ、思考の転換を促していく。
「教授陣は4日間にわたる濃密な講義でも、手元にノート一つ置かず、知識量と豊かな経験を武器に教壇に立ちます。どんな質問に対しても、一瞬のためらいもなく、付加価値を乗せて打ち返してくる。その知性と教室を巻き込むファシリテーション力は、まさに超一流です」
さらに西口氏は「参加者の多様性」が掛け合わさることで生まれる化学反応に、カリキュラムの最大の強みがあると語る。
「2025年度は28社から58名が参加しました。職歴や業種もまったく異なるバックグラウンドを持つビジネスパーソンだからこそ、同じ講義を聴いても解釈や受け止め方は千差万別。異なる視点に触れ、自らの『思考の癖』を相対化すること自体が、イノベーションの第一歩なのです」
学びを個人で終わらせない。役員プレゼンテーションという総仕上げ
朝9時から17時半まで、4日間にわたる濃密な講義で得られた気づきを一過性のものとして風化させないために、IBCは最終日を「学びの整理と持ち帰り」に充てている。参加者はフレームワークを用いて学びを構造化し、その総仕上げとして、2026年度は自社の「役員に向けたプレゼンテーション」を作成・発表する。
「日常業務に戻ってから『良い研修だった』で終わらせないために、4日目のうちに社内で即座に報告・提案できる状態まで仕上げます。IBCで扱うのは、個人が頑張って終わりにする話ではなく、会社全体で取り組むべき組織のテーマです。経営陣のコミットが不可欠だからこそ、最初から『役員向けのプレゼンをつくる』と明確に設定しているのです」
全員が発表し、他社の役員向け提案を直接聞くことで、「この会社はここに反応するのか」といった自分たちにない視点や盲点に気づくこともできる。
「プロフェッショナルな講義と、泥くさい実践・発表のプロセスが、参加企業の意識を大きく変えています。ある企業の役員からは『社内報告会のときの参加者の顔つきが違う。本当にうれしそうに研修内容を説明してくれた』という声も寄せられ、毎年継続して幹部候補を送り込む企業も多いです」
さらに上智大学では、研修から数カ月後にIBCの担当教授を日本に呼び戻し、フォローアップを行う「同窓会」を開催している。共通の言語と体験を持った受講生同士が企業の垣根を越えて個別に連絡を取り合い、新たな協業模索へと発展するケースも生まれているという。
IBCは上智大学にも、ポジティブな循環をもたらしていると西口氏は話す。
「プログラム期間中には、来日した教授による学生向けの特別講演会も開催しています。講演直後に学生が長い列を作り、教授と活発な議論を交わすなど、キャンパス全体にシリコンバレーさながらの熱気あふれるムーブメントを巻き起こしています」
この先進的な社会人教育の実績は、「国際性」や「文系」という従来の上智大学のイメージを超え、産業界における「次世代リーダー育成を牽引するフロントランナー」という姿を体現している。またUCバークレーエグゼクティブエデュケーションでは、企業ごとの経営課題や人材育成ニーズに合わせて、一社ごとにテイラーメイドの人材育成プログラムを設計することも可能だ。すでに複数の企業で具体的な協議が進んでおり、その動向に注目が寄せらせている。
上智大学とUCバークレーエグゼクティブエデュケーションの情熱と知性、そして異なるバックグラウンドを持つ異業種の仲間たちが交わる「熱狂の場」から、企業の垣根を越えて組織や社会を動かす変革の力が生まれ始めている。
受講を希望される方は、9月30日(水)までに下記申し込みフォームよりお申込みください。
※書類選考がございます。
◎お問い合わせ
上智大学Sophia Future Design Platform 推進室
(プロフェッショナル・スタディーズ事務局)
Email: prostudies-co@sophia.ac.jp
「Innovation Boot Camp」プログラム詳細についてはこちらから
「Innovation Boot Camp 2026」一般公募申し込みフォーム(※書類選考あり)
