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経営戦略の強化策として注目される「リジェネラティブ」(前編)。CSRやCSVと何が違うのか? ビジネスパーソンが知っておくべきこと

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スペシャルティーコーヒーの主力は、ラテのようなミルクを多分に含むプロダクトである。ミルクを生産しているのは乳業メーカー、そして酪農である。実は、この酪農が社会的課題を数多く抱えている。

まず産業としての持続性だ。飼料価格高騰、消費低迷というマクロ課題のみならず、生物である乳牛を活用するという生産の不安定性も抱える。もう一つの課題は、牛からげっぷとして排出される消化管内発酵由来メタンだ。メタンは温室効果ガス(GHG)としてCO2の30倍もの影響があり、ミルクの生産過程における最大の温室効果ガス排出源である。

この課題に立ち向かう事例として、スターバックスのコーヒー豆粕を使ったリサイクルループが挙げられる。14年から開始され、店舗で出るコーヒー豆粕を物流センターへの戻り便で回収し、提携企業が牛の飼料や畑の堆肥へと加工、その飼料で育った牛のミルクや、堆肥で育った野菜が、最終的にスターバックスの商品として店舗に戻ってくるという循環型の仕組みだ。

取り組みの中では、コーヒー豆粕を乳酸菌によって発酵し、特殊飼料化するバイオ技術が使われている。初期に技術提供したとされるメニコンの発表資料によれば、研究段階の事項も含まれるものの、牛の乳房炎抑制、牛1頭当たりの生産乳量増加、メタンガスを50~70%も減らす可能性が示唆されている。すなわち、酪農のオペレーション改善や、酪農からのGHG排出抑制が期待でき、さらにはコーヒー側の買い取り状況にもよるが、ステークホルダーである酪農家が安定して生乳を供給できるようになるのである。

スターバックスの事例から何を学べるか

また、リサイクルループを形成するがゆえに、特殊飼料を活用して生産された生乳は、通常の生乳と分けて「特定ルート」としてサイロタンクに収集・加工される。一般に、通常の生乳はブレンドされるために、品質は安定するが突出したものは得られないと言われる。

一方で、この「特定ルート」で収集される生乳は、通常の生乳と混ぜずに加工すれば、より質の高いミルク原料となることが期待でき、ラテの品質向上に貢献するだろう。

そして、忘れてはならないのが消費者のニーズである。

私が所属する日本総合研究所の調査によれば、コーヒー飲料において、持続可能な素材利用が、味や香りの向上や機能性向上と同等かそれ以上に評価され、市場規模や価格を押し上げるという調査結果も出ている。以前であれば、旧来の価値に肉薄することはなかった。加えて、先述の通り、より質の高いミルク原料やラテが期待できるのであれば、ニーズもより高まるはずだ。

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