学校の通知表・調査書にある「主体的に学習に取り組む態度」《ノート提出、締切遵守で評価するのは間違い》学習指導要領の改訂でどう見直し?

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ここで問題になるのが、この評価が、評定(総括的評価)として通知表→指導要録→評価書というシステムの中に組み込まれているということだ。

その評価結果が、児童生徒の将来に大きな影響を及ぼしかねないハイステイクスな評価となると、教員は、どの児童生徒からも公平に得られる客観的な証拠(評価データ)を見つけようとする。

そうして、「主体的に学習に取り組む態度」のうち、「粘り強さ」を抽出して、それをノート提出などで評価するといったことになるのだ。先生の指示にしたがってノート提出する行為は、主体性とはほとんど関係しないにもかかわらず。

ジェリー・ミュラーは著書『測りすぎ』(みすず書房, 2019)の中で、測定・評価のためのチェックリストとして10項目挙げている。

その1つに次のような項目がある。「本当に知りたいことの代用として何を測定しているのかを自問するべきだ。その情報が測定の狙いにとってあまり有益でなかったり、代用としてあまりよくなかったりするのなら、そもそも測定しないほうがましだ」。

ノート提出、締切遵守、きちんとした振り返りの記述などは、「主体的に学習に取り組む態度」の評価データとして不適切な代用でしかないのである。

審議では「主体性」概念が新たに明確化されている

現在の学習指導要領改訂の審議では、「学びに向かう力、人間性等」が「初発の思考や行動を起こす力・好奇心」「学びの主体的な調整」「他者との対話や協働」「学びを方向付ける人間性」の4つの要素に整理されている。

とくに前の3つに「主体性」概念の明確化がうかがえる。また、教科等を横断した「個人内評価」として指導要録の総合所見欄等に記載することが提案されている(中央教育審議会教育課程企画特別部会「論点整理(素案)」2025年9月5日)。

目標準拠評価ではなく個人内評価としたこと、教科ごとではなく教科等横断としたこと、数値による評定ではなく文章による記述であることなど、かつてない大きな変更だ。

不適切な代用データでハイステイクスな評価を行わないためにも、教師の評価負担を減らすためにも、よい評価を得ることだけを目的とした学習行動に児童生徒を向かわせないためにも、この改革の方向性は望ましい。

学習指導要領の改訂作業は、教育課程企画特別部会による方向性の検討が終わって、いよいよ総則や各教科等の審議に移る。今後の行方を見守りたい。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
松下 佳代 京都大学 教授

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まつした かよ / Kayo Matsushita

教育学研究科 教育学環専攻教育・人間科学講座。
専門は教育方法学、大学教育学(とくに能力論、学習論、評価論)。1990年代以降提唱されるようになった〈新しい能力〉(コンピテンス、リテラシーなど)や学校・大学でのその形成のあり方について、カリキュラム・授業・評価などの点から批判的に検討している。中高や大学の先生と一緒に実践を作りながら、実践をふまえた理論の構築を目指している。

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