学校の通知表・調査書にある「主体的に学習に取り組む態度」《ノート提出、締切遵守で評価するのは間違い》学習指導要領の改訂でどう見直し?

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だが、そのいずれにおいても困難に直面する。「主体的に学習に取り組む態度」には、「主体的」と「態度」という、教育界でも日常生活でも非常によく使われながら、その意味があいまいな語が含まれているからである。

まず、「態度」については、「あることをよいと思い、いつでも『~しようとする』傾向ができている状態」とひとまず定義することができる。だが、児童生徒が何らかの行為をしたときに、それをただちにこのような態度の表れと見ることはできない。強制や自発的服従やフリ(演技)かもしれない。

また、アンケートを使うにしても、「社会的望ましさのバイアス」(回答者が「本心」ではなく「他人によく思われる」「社会的に正しいとされる」回答をする傾向)が働きやすい。したがって、態度の評価は行いにくいのである。

「主体的」は、さらにやっかいな語だ。「主体性」は学校だけでなく、職場においても求められている。例えば、経団連のアンケートでは、大学生の採用にあたり重視する資質として、2011年以来一貫して、「主体性」がトップになっている。

だが、その使い方は人によって異なる。武藤(2025)※1によれば、「自分なりに考える」「発信する」「仕事に関して協働する」といった多様な意味が含まれているようだ。

主体性のわかりにくさは、それに相当する英語が1つには決まらないことにも表れている。

藤田(2013)※2は、主体性(主体的)にあたる英語の候補として、主観性(subjectivity)、自発性・自主性・能動性(spontaneity, voluntary, activeness)、自律性・自主性・自己決定(autonomy, self-determined, self-directed)、自律性・独立性(independence)、自己同一性・個性・固有性(identity)、独創性・独自性(originality)を挙げている。

また、最近では、行為主体性(agency)もよく使われる。例えば溝上※3は、主体性をagencyとみなし、「行為者(主体)から対象(客体)へとすすんで働きかけるさま」と定義している。

ちなみに、文科省自身は、「主体的な学び」を「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」と説明し、「主体的」をproactiveと訳している(proactiveはreactiveの対比語で、事態に反応するのではなく、先取りして自ら事態に働きかけることを意味する)。

このように、「主体性(主体的)」は、概念の明確化からして難しい。したがって、評価データの収集や評価基準にもとづく価値判断に進むことが困難なのである。

※1 武藤浩子(2025)『「主体性」はなぜ伝わらないのか』ちくま新書 ※2 藤田英典(2013)「学びの主体性と共同性」『京都大学高等教育研究』19, 142-152 ※3 溝上慎一「主体的な学習とは―そもそも論から「主体的・対話的で深い学び」まで―」

「主体性」の客観的な証拠を見つけようとして…

「いや、日頃の児童生徒の言動を見ていれば、主体的に学習に取り組む態度は評価できるはずだ」と言う人もいるかもしれない。

次ページ審議では「主体性」概念が新たに明確化されている
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