1人1台端末もAIもフル活用、特別支援教育の現場から見えた「テクノロジーの可能性」 "ICT活用の先駆者"関口あさか教諭の視点

埼玉県立本庄特別支援学校教頭
教頭の内田考洋氏も、関口氏が熊谷特別支援学校にいた頃にICT活用を共に推進した「Apple Distinguished Educator」だ。重度重複障害のある児童生徒を対象としたICT活用に取り組み、アメリカのApple公式イベントではその実践が世界中に紹介された。現在は同校で起案決裁の電子化やチャットツールの活用など校務DXを推進している内田氏は、「ICTは道具です。教員の発想力や応用力で児童生徒の支援においても業務効率化においても、やれることはまだまだあるはずだと考えています」と語る。
ICT活用に前向きな同校について関口氏は、「ツールに厳しい制限がなく、先生たちは新しいことにチャレンジしやすい。数年先の公立学校の姿かもしれません」と表現し、こう続ける。
「子どもたちにとっても、学校の中で新しいテクノロジーに触れられる環境は大切だと思うのです。それはICTスキルの習得や学びの可能性を広げるという観点だけでなく、学校の中でテクノロジーの使い方で失敗したり試行錯誤できたりすると、周囲の人に相談しながら問題を解決する力も養われるからです。とくに困難さがある子にとって、支援を求める力は社会に出てから重要となります」(関口氏)
これからの時代、子どもたちの学びの可能性や生きる力を伸ばしていくためには、教育委員会や現場のリーダーたちが、テクノロジーの使用に制限をかけずに教員たちのやりたいことを応援していく土壌が必須であると言えそうだ。
通常学級の教員にも必要な「特別支援教育の視点」
しかし、全国の学校に目を向ければ、十分にICTを活用できていないケースはまだまだ見られる。文科省の「通級による指導実施状況調査結果」によれば、2023年度に通級による指導を受けている児童生徒は20万人を超えて過去最多となっているが、通常の学級で読み書きなどの困難がある子どものICT活用が浸透しているとは言えないのが実情だ。板書の撮影や音声入力などの代替的な学び方に対し、理解不足や抵抗感が根強く残っている現場も少なくない。
文科省による2023年度の別の調査では、採用後10年以内に特別支援教育に関する経験がない教員が8割に上ることが明らかになっており、教員の経験や意識の差も背景にあるとみられる。
こうした中、配慮が必要な子どもたちの学びを支えていくにはどうしたらよいのか。「地域の各学校に特別支援教育の専門性を持った教員が配置され、1人ひとりの“その子らしい学び”に対してICT活用も含めてフレキシブルに対応できる体制が理想」(関口氏)だというが、今できることとして関口氏はこう呼びかける。
「ある通常学級で、全員にタブレット端末を導入したときのこと。最初はみんな興味津々でしたが、やがて多くの児童が『手で書いたほうが速い』と使わなくなり、使い続けたのは、支援が必要な子を批判していた児童だったというエピソードがあります。『ICTを使う子はズルい』と言う子こそ、実は支援を必要としているのです。使ってみて初めて自分に必要かどうかがわかるので、まずは子どもたち全員が使えるようにするところから始めていただきたいです。診断名ではなく、困難さに注目してほしいと思います。こうした特別支援教育の視点を通常学級の先生方が学ぶことは、学級経営の安定にもつながるはずです」(関口氏)