英検2級で早慶上智ICUに合格する総合型選抜受験生の「志望理由書」の秘訣 必要なのは活動実績でなく"問い立て"のセンス
この問いが、心理学の学術的な視点でどれほど価値があるのかはわかりません。ただ、この問いを聞いた時は、「よくそんなことを思いついたね」と感じました。実際、類似の論文を検索しても、先行する研究はほとんど出てきませんでした。つまり、この学生はまだ誰も研究していないテーマを見つけ出したのです。
「他人がやっていないテーマ」を見つければ、当然評価は高くなります。なぜなら、大学で取り組む研究は、他人がしていないことをやらなければ評価されないからです。
例えば、仮に博士課程の学生が研究テーマを認められると、その学生は学術振興会(以下、学振)の特別研究員に採用され、奨学金や研究費が支給されます。学振の特別研究員というのは、若手研究者の登竜門というわけです。2020年度の学振の特別研究員に採用された研究一覧を見ていると、『世界文学としての谷崎潤一郎:英訳の受容と翻訳者の役割』(早稲田大学・光井理人)という、谷崎潤一郎の翻訳者に関する研究を見つけました。
谷崎潤一郎は歴史上の大作家ですから、すでに研究し尽くされています。ここから単に谷崎の作品を研究したのでは、新しい発見は生み出せません。まさにこの「谷崎潤一郎の翻訳者に関する研究」のように、他の研究者がまだ手を付けてない点に着目しなければ、研究の価値を認めてもらうことができないのです。
大学での勉強は“私だけの問い”を追求するもの
もちろん高校生には、学振の特別研究員レベルに高度なものは求められていませんが、なにか新しいものやオリジナリティがあるものを提示することができれば、「問い立てのセンス」が認められることはたしかです。ここで差別化ができ、アドバンテージを取ることができれば、英語力が英検2級でも、早慶上智ICUクラスの難関大学に合格できる確率はぐんと上がります。
以前、日本を代表する研究者が、「私たちが追うのは“自分だけの真実”だ」と言っていました。この言葉の通り、“私だけの問い”を追求するのが「研究」なのではないでしょうか。研究者たちは、そのために日々多くの文献を読み込み、論文を執筆しています。この研究の入り口の作業を受験生に体験させ、学問をするだけの“学力”があるかを問うのが総合型選抜のキモなのでしょう。その“学力”が、文献を読んで書く能力というわけです。
しかし現在では、文献を読んだり、論文を書いたりするといった作業は、AIがやってくれる時代になりつつあります。正直私も、AIにPDF資料を読み込ませて、内容の要約をしてもらうこともありますが、AIの読解の精度はどんどん上がってきていると感じます。
それでも、AIは人間が作り出したものを学習しアウトプットすることしかできないので、新しいものやオリジナリティに溢れるものを生み出すことはできません。“私だけの問い”を見つけられるのは人間だけです。だからこそ、総合型選抜においても、唯一無二の“私だけの問い”を見つけられることの評価は、ますます高まってくるでしょう。
(注記のない写真: cba / PIXTA)
執筆:受験ジャーナリスト 杉浦由美子
東洋経済education × ICT編集部
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