【対談後編】お金を稼げるのは「誰かの役に立つから」だと子どもに伝えたい 「なによりお金が大事」の思考が本末転倒な訳

お互いの背景を知れば、人は理解し合える
田内 学(以下、田内):私は、高校生で読んだ『銀河英雄伝説』が今に生きています。銀河帝国(専制政治)と自由惑星同盟(民主主義)が争うのですが、これが、両者の視点で物事を考えるきっかけになりました。作中で登場人物が、「愚将と智将は紙一重だ」と指摘する場面があります。愚将は味方を100人殺しているが、智将は敵の人間を100人殺している、というものです。
このように、世界を俯瞰して両側から見る視点はとても大切で、例えば投資も、1000円で買って2000円で売れれば自分は儲かりますが、一方で裏には、1000円で売らされた人と2000円で買わされた人がいるわけですよね。この視点は、現在私が金融教育をするうえでも、非常に役立っています。
髙宮 敏郎(以下、髙宮):私が経験してよかったのは留学です。留学当初、見た目に親近感があるアジア人が自分と違う考え方や行動をすることに、なんとなく違和感がありました。欧米の友人が土足で部屋に入って来ても、「文化が違うから」と納得できるのに。そのうちに、外見が似ていようがそうでなかろうが、おのおのが自分の国の文化を大切にしていて、それは私自身が日本の文化に誇りを持っているのと同じということに気が付きました。以降は、自分と違う考え方や生き方をする他人も理解し、尊重できるようになりました。
田内:とくに日本は、「周囲に合わせるべき」という同調圧力が強いですよね。
髙宮:異文化コミュニケーションは家族間にもありますよね。妻は幼い頃からいろいろな国を経験しているのですが、私が国内で驚いたエピソードを話すと、「海外では普通だよ」と言われます。でも、お互いの常識が違う場合は、その背景や理由さえきちんと理解すれば実はうまくいくんですよね。

SAPIX YOZEMI GROUP共同代表
1974年、東京都生まれ。1997年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)に入社。2000年、学校法人高宮学園代々木ゼミナールに入職。同年アメリカ・ペンシルベニア大学へ留学し、教育学博士(大学経営学)を取得。帰国後、財務統括責任者を務め、2009年より現職。学校法人高宮学園代々木ゼミナール副理事長、株式会社日本入試センター代表取締役副社長も兼務。「教育はサイエンスであり、アートである」をモットーに、これからの時代を担う子どもたちの教育を支える活動を行っている
「誰かの役に立つ」からお金がもらえる
髙宮:ここからは金融教育について話したいのですが、最近の子どもたちは、現金を使う機会が減っていると思いませんか? 昔のように、1000円を渡して「買い物してきて」と言える時代でもないし、子どもに電子マネーを使わせている家庭も多いです。電子マネーだと、子どもはチャージすればお金が降って湧いてくる錯覚に陥る懸念もあるし、最近ではYouTubeなどで、ゲームへの重課金や巨額の借金が武勇伝のように語られています。現金に対するリアリティが薄くなっていないか、気がかりですね。