【対談後編】お金を稼げるのは「誰かの役に立つから」だと子どもに伝えたい 「なによりお金が大事」の思考が本末転倒な訳
田内:悩んでいる保護者は多くて、実際に相談もよく受けます。現金を使わせたいなら、例えばお祭りの縁日や、家庭内でお手伝いしたら現金でお小遣いを渡すなどがいいかと思います。心配なのは、今の時代「1人で生きていかなくては」、という気持ちが強いあまり、「なによりもお金が大事」という考えが大きくなっていると感じることです。
昔は子育ても、近所の人や親戚が自然と助けてくれました。しかし現代では地域社会が薄れ、子守りは保育園やベビーシッターなどに頼るしかありませんね。知らない人にお願いするからこそ、お金が必要なのです。お金はもともと、知らない人に物事を頼むための「道具」でした。知らない人とは信頼関係がないので、互いを信用するためにお金がいるのです。しかしそれは、誰にも協力してもらえないときの手段で、本来は困っている人がいれば助けたい・助けようと思うもの。それが今は、「道具」がメインになってしまっているんですよね。
子どもたちも、中学生から高校生へと年齢を重ね、社会をリアルに感じるにつれて、仲間や愛よりもお金が大切だと思う傾向にあるようです。最近は1人でお金を稼ぐ方法が増えて、仲間がいなくても暮らせるようになったという背景もあるでしょう。

作家・社会的金融教育家
2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。 著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある
髙宮:例えばアメリカは家庭での金融教育として、家族で作ったクッキーやケーキを売ってお金を稼ぐことを教えることがあるようです。お金は降って湧くものではなく、汗水たらして苦労してこそ手に入ると知るきっかけになりますよね。
田内:実はここについては、私はちょっと意見が違うのです。大切なのはお金をどう稼ぐかではなく、「誰かの役に立つからお金をもらえる」ことを子どもに教えることだと思います。アメリカの例だと、苦労したからではなく、誰かがクッキーを美味しいと思って喜んでくれたからお金がもらえた、ということです。人の役に立てたことを実感することこそが重要だと思います。その点アルバイトは時給制で、自分の時間を売ってお金を得ているので、こうした実感はしにくいかもしれないですね。でもこれでは、「働くこと=自分の時間を売る罰ゲーム」のように感じてしまうと思います。
髙宮:たしかにそうですね。キャッシュレスなどで世の中が便利になり過ぎていることが、子どもたちにとってはむしろ可哀想なのかもしれません。欲しいものはいつでもネットで買えて、我慢する機会も少ない気がしますから。
田内:お金については、改めて「金融教育」と銘打つのではなく、親が正しい使い方を見せてあげることが1番だと思います。もちろんお金を払えば、誰かがどうにかしてくれることは多いでしょう。現に、ビジネスはそれで成り立っています。でも、金融教育はお金を払ってレッスンを受ければいいわけではなく、最終的にどう「生き方」につなげるかが重要です。親が普段から行動で示せば、子どもも自然とそれをまねていくはずです。