ロシア中銀は、そもそもロシアの2024年のGDP成長率が1~3月期をピークに低下した理由が、需要の減退よりも供給制約が強まったことにあると分析している。つまり、ロシアの当局も、ヒト・モノ・カネの不足を認めているわけだ。こうした不足の問題に伴い高インフレが続くため、2025年のロシアの経済成長は需要面からも圧迫されるだろう。
ロシア政府は9月に発表した予算案の中で、2025年のGDP成長率は2.5%増と2024年の予測値(3.9%増)から低下するという見方を示した。他方で、ロシア中銀は10月の金融政策決定会合の際に公表した『中期予測』の中で、2025年のGDP成長率は0.5%から1.5%のレンジにとどまるという保守的な見方を示している。
いずれにせよ、政府も中銀も、2025年のGDP成長率は2024年よりも低下すると見込んでいる。仮にウクライナとの戦争が停戦に達したとしても、軍需の減退は見込みがたく、民需を圧迫し続ける。そのため、成長率の低下が与える印象よりも、ロシア国民の生活は厳しさを増すか、そうでなくても、改善は見込みにくいと考えるほうが自然である。
問題は、2025年の成長率が上振れする展開だ。この場合も、経済成長の牽引役は軍需となるだろう。言い換えればこのケースでは、それだけ軍需の膨張に歯止めがかからず、民需が圧迫され続けることを意味している。このシナリオになれば、ヒト・モノ・カネの不足が一段と深刻化し、国民の生活は目に見えて悪化すると考えられる。
望みがたい軍需の縮小
2025年もロシア経済を左右するのは、軍需、つまりウクライナとの戦争の動向だ。戦局の具体的な展開は予想できないが、年明けに返り咲きを果たすアメリカのドナルド・トランプ前大統領が停戦の仲介に前向きであるため、実際に停戦に至る展開も意識されるところである。とはいえ、繰り返しとなるが、停戦に至っても軍需の縮小は見込みがたい。
加えて、自らが長年バックアップに努めてきたシリアのアサド政権が2024年12月に崩壊したことも、ロシアにとっての新たな重荷となる。ウクライナとの戦争の裏で手薄となっていた中東戦略の虚を突かれたかたちとなったため、ロシアは今後、中東にも神経を配る必要が出てきたからだ。事態の推移によっては、軍事的な関与も視野に入る。
ロシア国内には多数のムスリムが存在し、連邦政府に対して反感を持つ者が少なくない。中東情勢の緊迫化はそうしたロシア国内のムスリムを刺激するため、ロシアは国内の治安維持の観点からも、中東情勢への関与を深めざるをえない。このこともまた、ロシアの軍需を刺激し、国防費の高止まりないしは増加につながる要因となると考えられる。
こうした構造の下で民需が圧迫され続ければ、国民生活の疲弊は自ずと進むことになる。2025年に入ると、ロシア在住のSNSユーザーによる情報は、国民生活の疲弊を嘆くものが多くなるのではないだろうか。そうした生々しい声こそが、GDP成長率が持つ印象と国民生活の実像との間に大きなズレがあることを、端的に物語る指標だといえよう。
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