正常な経済であれば、民需がその成長を牽引する。その結果、経済は持続的に成長する。いわゆる「拡大再生産」が生じるわけだ。他方で、軍需は確かに経済成長を牽引する公需であるが、同時に民需を強く圧迫する大きなクラウディングアウト効果を有している。つまり、軍需主導の経済成長は、民需の犠牲の上でしか成り立たない。
実際に今のロシアでは、軍需領域にヒト・モノ・カネといった生産要素が優先的に割り当てられている。一方で、生産要素は有限であるから、軍需を優先する以上、民需領域に割り当てられるヒト・モノ・カネは制限されることになる。軍需に近い経済活動に従事している一部の国民は好況を謳歌できても、多くの国民の生活はむしろ苦しいものとなる。
労働力が兵士として吸い取られている
ヒトの面では、国民の生活に密接なサービス業で、不足が目立つようになっている。具体的には、2024年9月時点における卸売小売業・自動車修理業・宿泊飲食業の雇用者数は前年から41万人減少した。一方で、行政・国防の雇用者数も33万人減少、これも兵士不足に陥ったロシア軍が第三国からの徴兵に依存している事実と整合的である。
モノの面では、インフレの高進がその不足を物語る。すでに述べたように、2024年の消費者物価上昇率は20%近くも上昇した。需要が強い面も否定できないが、民生品の供給が追い付いていないことはロシア中銀も認めるところだ。アメリカによる制裁で輸入品は増えにくく、軍需を優先する以上は国産品の代替生産が進まないのも当然といえよう。
カネの面では、金利が上昇していることがその不足を裏付ける。そもそも、ロシア中銀が物価安定や通貨防衛の観点から金利を引き上げているが、これは市中のルーブル資金が回収されていることを意味する。アメリカドルに代わってロシアの企業や銀行に用いられるようになった人民元も、その需要に供給が追い付いていないため金利の上昇が顕著だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら