ところで、日系企業の多くが進出するデュッセルドルフを州都とするノルトライン・ヴェストファーレン州は、いわゆるルール工業地域の中心であり、その経済規模はドイツ最大である。その中核をなす産業である化学工業の国外移転が進めば、デュッセルドルフを中心とするドイツ西部の経済は、深刻なダメージを受けることになる。
ドイツでは2025年10月までに総選挙が行われる。ドイツの総選挙は比例代表制で行われるため、政党支持率が国会の獲得議席に概ね比例する。足元の政党支持率を確認すると、中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟(Union)が、各種調査で30%前後の支持率で首位となっており、他の政党を圧倒的に引き離している。
一方、政権与党である中道左派の社会民主党(SPD)は15%程度、環境政党の同盟90/緑の党(B90/Gr)は10%程度、自由主義政党の自由民主党(FDP)は5%程度であり、3党合わせてようやくUnionと対抗できる状態にある。FDPが離反するか、Unionがより保守色の強い「ドイツのための選択肢」(AfD)と組めば、政権交代は確実である。
着実にレームダック化するショルツ連立政権の下、連立3党はそれぞれの支持者へのアピールを重視し、まとまりを失ってきている。ショルツ首相を擁するSPDは労働団体の要求を重視し、最低賃金の一段の引き上げや週休3日制の導入に前向きな姿勢を見せる。一方でFDPは、産業界の声を重視し、規制緩和の推進と政府支出の抑制を強調する。
そしてB90/Grだ。同党は引き続き環境政策の強化を重視、脱炭素化への取り組みをアピールする。財務相ポストを担うFDPが財政再建モードを強めており、資金面での手当ては難しくなったとはいえ、B90/Grは次期の入閣がほぼ絶望的であるがゆえに、その党是に従ったエネルギー政策に邁進している。これではエネルギー政策の修正は望めない。
次期政権で原発回帰が進む可能性も
Unionを率いるキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は、原発再稼働の推進派としても知られる。Unionが次期政権を担った場合、これまでの脱原発路線が一転し、原発再稼働の道を進む可能性が出てくる。この場合、それまで原発を運営してきた大手の電力会社を説得できるかどうかが大きなハードルとなる。
それまでドイツでは、RWEとE.ON、EnBWの大手電力3社が原発を運営してきた。これら3社は、ドイツ政府の意向を受けて、10年以上のスパンをかけて段階的に脱原発を進めるとともに、石炭火力を廃止し、再エネを拡充してきた。Unionが次期政権を担い、原発再稼働を求めたとしても、それにすぐ対応できるような体制にはないはずだ。
他方で、このまま事態を放置すれば、ドイツのエネルギー価格は低下が望みがたく、産業空洞化に歯止めがかからない。ショルツ政権の責任は確かに重いが、一方でショルツ政権のエネルギー政策の基本的なデザインを描いたのはアンゲラ・メルケル前首相である。つまり、今のドイツのエネルギー事情の苦境は、この20年間の積み重ねでもある。
次期政権は、はたして現実的な解を見出すことができるだろうか。それとも、腹を括ってメルケル首相以来の脱原発と脱炭素に重きを置くエネルギー政策に邁進するのか。仮に原発再稼働に回帰するなら、当然のことだが、早いほうがいいだろう。時間が経過するほどそれが難しくなることは、日本の原子力発電事情がよく物語っている。
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