最強を誇ったドイツ製造業「国内空洞化」の予兆 政府のエネルギー政策を失敗と評価する企業

✎ 1〜 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 33
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

電力価格が下がらない理由は、再エネによる電力価格が高いことにある。再エネ推進派は、再エネの価格競争力が改善していると強調する。しかし現実には、原発と石炭火力を閉鎖する前よりも、電力価格は上昇したままである。その責任をガス価格の高止まりに求めるのは無理がある。結局、再エネの経済性は、推進派の主張ほど改善していない。

それにガス価格が高止まりしているのは、脱ロシア化の一環として、それまでパイプライン経由で輸入してきたロシア産天然ガスの利用を放棄し、輸送コストがかかる液化天然ガス(LNG)の輸入を増やしたからだけではない。結局のところ、ショルツ政権が石炭火力からガス火力への転換を進めていることも、ガス価格の高止まりにつながっている。

コロナ前に戻らない生産水準

ここで、製造業の生産指数の動きをコロナショック直前の2019年を100とする指数で確認してみたい。ドイツの製造業の2本柱である化学工業と自動車工業の生産水準は、コロナショックを受けてともに下振れしたが、その影響は特に自動車工業に強く表れた。一方で、ロシアショックに伴う影響は、むしろ化学工業に強く表れている。

DIHKの調査では、エネルギー集約型であり、かつ大企業であるほど、国内生産の縮小や生産拠点の国外移転を強く検討していることが明らかとなっている。化学工業はエネルギー集約型産業の代表的な存在であり、大量の天然ガスを必要とする。そのため、ガス供給が不安定であれば国内生産を縮小せざるをえないのは当然の帰結となる。

それでも、天然ガス価格が最悪期に比べると低下したこともあり、ドイツの化学工業の生産水準はコロナ前の9割程度まで回復した。しかしながら、脱ロシアでロシア産の安価な天然ガスが利用できなくなったため、ドイツのガス価格がコロナショック以前の水準まで低下することは見込みがたく、化学工業の国外移転は避けがたい。

次ページエネルギー政策の修正は見込めず
関連記事
トピックボードAD