「受託」という新たな視点で「所有」について考える 『所有論』書評

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『所有論』鷲田清一著
所有論(鷲田清一著/講談社/3300円/576ページ)
[著者プロフィル]鷲田清一(わしだ・きよかず)/哲学者。1949年生まれ、大阪大学総長などを経て、現在はせんだいメディアテーク館長、サントリー文化財団副理事長。医療や介護、教育の現場などに哲学の思考をつなぐ臨床哲学を提唱。『モードの迷宮』『「聴く」ことの力』など著書多数。

所有物を他人が勝手に使うと、自らの身体に触れられたような違和感や嫌悪感を覚える人もいるだろう。われわれは無意識のうちに所有物を自己の延長線上にあると捉えている。

所有(権)とは何か。これが現代社会の最重要基盤であるのは言を俟(ま)たないだろう。所有権が曖昧になれば社会が混乱に陥るのは必至だ。自らの労働が生み出したものは自らの所有物だというジョン・ロックの労働所有論が後の身分制打破の契機となり、近代社会の礎を築いたのはよく知られる。同時に、所有権の追求は経済格差を生む。貧困層が苦しむのみならず、富裕層さえ、所有の魔力にとりつかれて自分を見失うなど、社会の大きな桎梏(しっこく)ともなっている。

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