医学部受験の現実、親子関係や「入試成績と医学部成績に相関なし」の内実 18歳で将来の勤務地決める「地域枠」にも賛否

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自治医大で全国から集まる医学生や若い外科医を指導し、さいたま記念病院院長などを経て、現在は茨城県立中央病院の名誉院長を務める永井秀雄氏は、医師の偏在など医療全体をめぐる課題を見渡したとき、地域枠選抜や卒業後の指定勤務の制度をむやみに否定すべきでないという立場だ。

「18歳に将来の縛りをかける地域枠は、『まるで奴隷契約ではないか』といった意見もあります。親が“指定勤務は契約としておかしい”と論を張ってきたり、地域枠を離脱してくる医師の違約金を肩代わりする都会の病院もあります。しかし私は、今の日本の医師偏在の課題を解決するためには地域枠制度は存続させるべきだと思っています」

永井氏は、医学部入試が理系科目に偏りすぎている現状や、医学教育をめぐる現状にも複雑な思いを抱く。

「理系の学力は医学の中の1つの要素にすぎません。点数を上げるためだけに高校生活が受験勉強漬けになるのは好ましくありません。化学や生物の知識はある程度役立つかもしれませんが、難しい数学の問題を解けても患者さんの様子を見るときには一切役に立ちません。

それより大事なのは、患者さんと話したり医療者とのコミュニケーションをとるうえでの文系の素養や、お年寄りが生きてきた時代背景や時事など一般的な社会常識です。医師を見ていると、その力がないわけではないけれど、もう少し知っていたほうがよいのでは……と思わされることが多いのです」

入試の成績と医学部での成績に相関はない

とくに自治医大の卒業生や地域枠採用者は、地元の大事な医者だからと「先生、先生」と呼ばれ、宴席で市長や村長の隣に通される機会もあるという。永井氏は学生に、月に1冊は医学以外の本を読んだり、同窓会など医者以外のコミュニティでさまざまな職業の人たちと話すことを勧めているという。

「私の実感では、入試の成績と医学部6年間の成績は無関係です。以前、ある大学の調査結果を示してもらったら、入試の成績と医学部卒業時の成績には相関がみられず、唯一弱い相関が見られたのが高校の内申書でした。入試で小論文や面接をじっくりやればいいという話ではなく、現在の医学部入試で測っている学力は何なのか、という根本的な議論が起きていいと思います。私は『医師余り』になってほしくて、一度『お前みたいな医者いらないんだよ』と言ってみたいんです(笑)本当に辞められたら困るので、今は言えないのですが」

近年永井氏は、幼児期からの医療教育を提唱している。運動は糖尿病予防になる、高血圧の原因となる塩分過多に気を付けるなど、誰もがある程度の医学の基礎知識を持ったうえで、さらに高い人間性を持つ学生を採用できれば、「優秀な医師になれる人を正しく選抜できるのでは
」と考えているのだそうだ。

このように、入り口の難関さが強調されがちな医学部受験だが、合格はゴールではない。6年間の学びのうえに医師国家試験、研修期間を経てようやくスタート地点という長い道のりだ。医師としての優秀さを何で測るかはさまざまな見方があるだろうが、少なくとも入試時の学力だけではないことは確かだろう。

一方で、働き方改革や臨床研修制度の見直し、医療技術の革新など医師を取り巻く環境は大きく変わりつつある。未知の状況にも対応できる医療者を育てるためにも、地域枠制度を含め医学部入試の改革が求められているのではなかろうか。

(文:長尾康子、注記のない写真:ダイ / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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