「天才探していた」ギフテッドクラスの失敗を経て、教育見直した翔和学園の今 「死ね」しか言わない少年を変えた共感と経験

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「私はつい、『もっと器具の精度を高めようよ』など、彼の苦手なところを頑張らせようとしていました。本来のうちの教育はそういうものではなかったはずなのに、それを忘れかけていたのです」

同氏の言う「本来のうちの教育」とは、能力の凸凹がある子どもの「凸」に注目し、その力を伸ばそうというものだ。彼らの強い好奇心や知識欲を刺激して得意なことに向かわせれば、苦手なほうの力も底上げされていく――という方針だが、水川氏はAくんの変化がうれしくて、ついそれを忘れていた。

そこで頼ったのは、Aくんが興味を持っている分野のスペシャリストだ。小惑星探査機はやぶさのイオンエンジン開発に携わった経験を持つ、元NEC・本田技術研究所の北章徳さんを招き、アドバイスをもらったり一緒に作業したりした。以降、Aくんは「もっと改良したい」「次はこうしてみたい」という前向きさを見せるようになった。

今は東京大学の学生にCADを教わりながら、「改良版イオンスラスターエンジン」の設計にいそしんでいる。水川氏は「第一線で活躍する本物の一流の方に触れたことが、彼にとっても大きな刺激になったようです。私がどれだけ言っても響かなかったのですが」と笑った。

北章徳さんとAくんの笑顔のツーショット(左)。2022年には仲間と世界最大の水ロケット打ち上げを目指し、2度の失敗を経てギネス記録を打ち立てた(右)

朝のあいさつにも「死ね」と返していたAくんは、学園の生活の中で次第にフレンドリーになり、あるときは里山整備で竹林の手入れを手伝ってくれたこともあった。中村氏が「竹を切るなんて意味がないことじゃないの? なんで一緒にやってくれるの?」と聞くと、彼は少し考えて「いろんな価値観があるって知ったからかな」と答えた。さらに、学園のスタッフが忘れられないシーンを収めた動画がある。撮影する水川氏が、自分が幸運だと思うことはあるかと尋ねると、Aくんは笑顔でこう答えた。

「……自分が一番ラッキーだと思うことは、ここに来られたことです。ありがとう」

はにかむようなAくんの姿に「もう一回言って」「そんなこと言ってくれるの?」「こちらこそありがとうだよ!」など、実にうれしそうな水川氏の声が重なり、その短い動画は終わる。

翔和学園の「凸凹の凸を伸ばす」は、決して高IQの部分に注目することではない。本人がやりたいことに着目し、目指す先を一緒に見ることだ。周囲の理解を得られず閉じた世界にいた彼らが、ここでは他者と目標を共有し、同じ世界に生きることができる。その経験が、成績や点数には置き換えられない成長を生むのだろう。

(文:鈴木絢子、写真:翔和学園提供)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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