ニコンで「著名CFO」が新社長に登用される必然 ソニーグループと同様に「社長がCFOを兼任」へ

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德成氏が社長となるニコンも、カメラ、露光装置、光学部品など事業領域が多岐にわたる。

主力事業のカメラはスマートフォンの普及により過去10年の間に市場が急縮小。カメラの売上高がピーク時の3分の1以下にまで減っている中、光学部品やヘルスケアなど新規事業の収益貢献度が高まっている。

「事業運営の面では、各事業部が安定的な収益を上げられる状況になってきた。私はその上にバランスシート重視とキャッシュフロー経営を付け加えたい。COOとCFOを兼ねる意味もそこにある」(德成氏)

德成旨亮氏
チャーミングな語り口で会見の場を和ませていた德成氏(撮影:今井康一)

ニコンは今、潤沢な手持ち資金を生かして、新たな収益柱を育てなければならない状況にある。新規事業育成のための投資が必須で、最近も2023年に約880億円を投じ金属3Dプリンターの有力企業を買収。これはニコン史上最大の買収となった。

加えて、PBR(株価純資産倍率)は1倍を割る状況が続く。投資を行い成長につなげると同時に、投資家への説明を通じて企業価値を高めていく必要がある。まさにCFOの重要度が増している局面といえる。

一方、事業が単一で、その分野の最先端を行くことが企業の成長に直結するような場合は、CTO(最高技術責任者)など技術面での経験が豊富な人物が経営を担うほうが適しているのかもしれない。

先述したように、ニコンも歴史的には技術者が社長を務めてきた。現社長の馬立氏は、半導体露光装置の開発に携わった期間が長くCTOでもあった。しかし今回は、自社の置かれた状況に合わせてCFOの社長登用を決めたのだろう。

德成氏とのより強い連携のもと、新規事業の育成を重点施策とする中期経営計画の推進を図る。「技術に偏重していたアンバランスを変えていく」(馬立氏)ことも狙いだ。

成熟期にあり事業転換や選択と集中を進めている企業は少なくない。「CFO社長」の誕生は今後も続きそうだ。

吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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