財政赤字は心配無用、インフレがひどくならない限りは――。そんな主張が数年前から賛否双方の議論を呼んできた。
MMT(現代貨幣理論)。それは、主流経済学を覆す真理なのか、はたまた荒唐無稽なトンデモ論か。見極めるうえでは、貨幣の話と財政の話が絡み合ったMMTの論理を丁寧に腑分けする必要がある。
「解剖」のメスならぬ筆をとったのは、財政史と金融論を横断して研究してきた伊藤修・埼玉大学名誉教授。全7回にわたる論考をお届けする。
※2024年2月29日(木曜)6:00までは無料で全文をご覧いただけます
MMTは貨幣論から出発する。その要点は次のようである。
①②は、貨幣史研究における一部の説を論拠にしている。それによれば、商品や金属などのそれ自体価値のある物が貨幣として使われた記録よりも、信用取引・貸し借り(つまりツケ払い)に使われた「債務証書」(借用証)という、それ自体は価値のない単なる約束の方が、歴史記録としてかなり古い。したがってこの債務証書こそが貨幣の起源である。
これと同様に、のちの国定(法定)貨幣も、税を支払わねばならないという債務をクリアする際に、それを国が受け取るという約束で成り立っている。債務と約束(信用)が土台なのである。
このように貨幣は政府が創造し、発行する。政府がみずから発行した貨幣を財政支出してはじめて、貨幣は社会に出回る。
「政府は貨幣を発行できるから財源は必要ない」
自前の貨幣を発行する国(主権通貨国と呼ぶ)の政府は、みずから貨幣を発行できるのだから、またそれ以前には誰の手にもあらかじめ貨幣はないのだから、貨幣を調達する必要すなわち「財源」も、調達手段としての税も国債も、必要ない。これが、のちの財源心配無用論につながっていく。
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