東京学芸大「教員・教育支援人材育成リカレント事業」で目指す「流動性と循環」 教員志望だけでなく多様な受講者を集める理由

「現在は、実際の学校現場にも教員以外にさまざまな方が働いています。また地域の方がボランティア等で学校に入ることも多くあります。そのため、この講座には教員を目指す人だけでなく、多様な人が参加していることに大きな意味があると考えています」(萬羽氏)
例えば講義の中でいじめについて考えるとき、受講生の多様さが利いてくる。教員のみならず、保護者や地域住民の立場からも意見が挙がることが、この講義の特徴の1つなのだ。講義日程終了時には、「自分と違う視点に気づけてよかった」「異なる立場の人とのつながりができてよかった」と話す受講者も多いそうだ。
※本事業の修了者は、神戸親和大学通信教育部への入学金等が免除され、一部科目を教員免許(幼稚園・小学校)取得に必要な単位として読み替えることができる
人材の質を保ちつつ入職の速度を上げることはできるか
この事業のもう1つの特徴は、実際に東京都や兵庫県の小学校で2日間の現場実習が体験できる点だ。前述のとおりさまざまな人が受講しているため、現在の学校に対する知識がない人も少なからずいる。そうした受講者は、自分たちの子どもの頃との学校の変化にとても驚くそうだ。萬羽氏はこう話す。
「『聞いてはいたけれど、実際にここまで大変なのか』という声は毎年聞かれるものです。こうした実体験を経ながら、現職の教員に触発されたり受講者同士が刺激し合ったりもして、それぞれの選択にも変化をもたらしているようです」
現場を知ることで教員を助けたいと考えるようになり、支援職を目指す受講者もいる。一度学校を離れた教員が、再び教育への熱意を取り戻す例もある。臨時免許の取得を待たず、外部講師として学校を支える選択肢に気づく人もいる。
松田氏はこの取り組みを「入職を先行する仕組み」にしていきたいと言う。
「教員になりたいと思っても、現状では資格を取って現場に入るまで2~3年かかります。それは教員を目指す人にとっても、人手不足にあえぐ現場にとっても長すぎる。まずは入職し、実際に働きながら転職を完了させていくというプロセスを示せればと考えています」
入職の速度を上げるに当たって、課題になるのは人材の質の担保だ。入り口のハードルを下げるとき、クオリティーも下がってしまうのではないかと懸念する人は必ずいる。これについても、松田氏はこの事業でつかんだ手応えを語る。
「小学校での実習では、退職した校長など、教育現場の実情を知る専門家が受講者のメンターを努めます。こうした評価も含め、4カ月間の講座を通じて、人材の質はおおむね見極めることができていると思います。数字などエビデンスの可視化も課題ではありますが、今のところは学校の反応も好意的で、まったく不向きな人が受講しているということはないようです。実習先の学校からは、『意欲のある人がたくさんいるのはとてもうれしいこと』という声も多く寄せられています」