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貴重な情報でも確信がなければ公電にしなかった 佐藤優の情報術、91年クーデター事件簿㊵

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筆者を含むモスクワの日本大使館員が必死になって情報を収集していた1991年8月20日深夜から21日未明にかけて、軍と市民が衝突し、3人の死者が発生した。

21日午前1時15分 ロシア共和国政府によると、ソ連軍の攻撃によりカリーニン通りで、市民ら3人死亡、10人が負傷。(「朝日新聞」91年8月21日夕刊)

これは、火炎瓶を持って戦車によじ登った青年を排除する過程で起きた偶発事故だった。死者の発生によって軍は動揺し始めた。ヤゾフ国防相も力の行使に対して消極的になった。21日朝にはソ連軍はモスクワ中心部から退去した。

偶発事故で死者 軍部の動揺と撤退

事故が起きたのは、大使館から2キロメートル離れたカリーニン大通り(現在の新アルバート通り)と環状線が交差するガード下だった。この交差点の南東の角には「アルバート」という悪名高いレストランがあった。

2階建てのレストランの上には、巨大な地球儀が載っている。レストランを予約するといつも人数の倍の席が用意されている。その席には美しい女性が座っていて、これから自分の家に行かないかと誘う。もちろんKGB(ソ連国家保安委員会=秘密警察)とつながっている女性たちだ。大使館員はこのレストランを、日本から出張してきた国会議員の接待でよく使っていた。インターファクスニュースで死者が発生したと聞いたとき、このレストランに日本からのお客さんを招待したときの記憶がよみがえってきた。

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