北海道初の公立夜間中学から見える、学びたい人の「ニーズ」と社会の変化 「ここは変わっていく学校」校長が語る予想図は
「進路希望はさまざまですが、高校への進学を希望する人は思っていたよりも少ない印象です。いつかは高校にも行くかもしれないけれど、現役で働いているクラスメートを間近に見ることで、社会で働くことに興味を持つ若者もいるようです」
学校のサポートに加え、就職の相談ができるクラスメートがいるというのは、若年層の生徒にとっては心強いことだろう。また、「いつかは高校にも行くかもしれない」という柔軟な選択肢を持てることは、均質でない環境で学ぶからこその強みではないだろうか。何歳になっても学び直せると思えばこそ、リカレント教育やリスキリングももっと浸透するはずだ。工藤氏はさらにこう話す。
「高校に行かなくても、大学や専門学校進学のために高卒認定資格を目指すという20代以上の生徒もいるし、学校や学びの楽しさに触れて『高校に行きたい!』と張り切っている高齢の生徒もいます。その姿勢がまた、10代の若い生徒の刺激にもなっているようです。いろいろな人がいる環境が、若者を働くことや学ぶことに前向きにさせている効果は絶対にあると感じています」
前向きさは自主性にもつながるようだ。星友館中学ではさまざまな行事も実施しているが、グラウンドで行う運動会のようなものはなかった。すると初年度、生徒から「運動会をやりたい」という申し出があった。発起人は外国にルーツを持つ50代の生徒。いろいろな年代の有志で実行委員会を結成し、資生館小学校の天然芝の校庭を借りての自主運動会を成功させた。工藤氏は「やりたいという声がある限りは続けてほしいし、どうやら運動会は恒例になりそうです」とにっこりする。

実は星友館中学の学校関係者評価委員会には、同校の生徒自身が参加している。通常はPTA役員の代表者が参加することが多いが、大人が多く通う同校にはPTAがないためだ。「生徒代表」は公募で選ばれ、昨年度は10代から70代の5人が、定例会議に出席しては生の声を語ったそうだ。
「当事者が評価委員会に参加することは少し勇気の要る決断でしたが、会議での意見の交流がとても活発になりました。今は比較的、高齢者のニーズが高い本校ですが、4、5年程度でこの流れは落ち着くでしょう。その後は外国にルーツを持つ人や若年層の不登校経験者の割合が増えていくとみています。本校はまだこれから変化していく学校。生徒自身の声も取り入れて、柔軟に対応していこうと考えています」
(文:鈴木絢子、写真:工藤氏提供)
東洋経済education × ICT編集部
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