北海道初の公立夜間中学から見える、学びたい人の「ニーズ」と社会の変化 「ここは変わっていく学校」校長が語る予想図は
若年層の入学者は、昼間の学校に通うことができなかった経験から、学校に対して漠然とした不安を抱いていることが多い。「公立学校の最後の砦として、そうした人にもきめ細かく対応していきたい」と工藤氏は続ける。
原則6年在籍可能、選べる6種のコース…多様な学びを提供
夜間中学は原則として週5日授業があり、中学校の教員が教える点などは昼間の学校と変わらない。だが星友館中学では最大で原則6年間在籍することができ、入学時に自分に合ったカリキュラムのコースを選ぶなど、さまざまな特徴がある。
コースは日本語学習を主な目標とした「日本語コース」や小学校段階の基礎を中心に学ぶ「スタートコース」から、中学校の内容をしっかり扱う「チャレンジ2コース」まで6種類。2年生や3年生から入学することもできるので、工藤氏は「理屈としては中3を6年間やってもいい」と笑う。
「15歳の人と80歳の人では、学力も学びの目標も大きく違います。高齢の人は体調と相談しながら、若い人は学校という場に少しずつ慣れながら、みんな自分のペースで頑張っていますよ」
とにかく多様な生徒を支えるため、星友館中学は開校前から入念な準備を重ねた。札幌市には30年以上の歴史を持つ「札幌遠友塾自主夜間中学」がある。また、3部制の定時制高校である市立札幌大通高等学校も人気を集めており、多様な生徒を長く指導してきた。星友館中学はこうした地域の力をフル活用しているのだ。
「遠友塾のスタッフと連携を取りながら、必要な配慮や生徒の望むことなどを教えてもらっています。外国にルーツを持つ生徒に日本語指導をできる教員もいなかったので、札幌大通高校から経験豊富な先生に来てもらいました。さらに学校の評価委員会には若者や外国人住民を支援する団体のメンバーや町内会の方も加わり、地域で一丸となって取り組んでいます」
それでも、いざ開校してみればさまざまな課題が見つかった。高齢者が多いがゆえの思わぬ課題もあった。
「耳が遠くて補聴器を使っている生徒が何人かいるのですが、授業で教員の話を聞くのに適した設定になるよう、学校に補聴器メーカーの方を呼んで調整してもらったこともありました」
夜間中学でも当然、1人1台端末の取り組みは行われている。だが70代、80代の生徒にはタブレットの扱い自体が難しいこともある。そんなときには、若い生徒がさらりと手助けしていると工藤氏は言う。また、反対に高齢の生徒が若い生徒を支えることもある。
「高齢でもはつらつとした人が多いので、なんとなく自信なさげな若者に『どうしたの、元気ないじゃない』なんて声をかけてくれることもあります。さすがに同世代の友達とは違うでしょうが、みんな自然にコミュニケーションを取っていますね」
誰かが誰かの負担になったり面倒を見たりするのではなく、必要なときに互いが補い合う関係ができているようだ。
若者を「働くことや学ぶことに前向きにさせる環境」とは
生徒が多様であることは、進路指導にも関わってくる。学校としては地域の若者支援センターとも連携しながら就労などに向けたサポート体制の充実を図っているが、「20代、30代以上の現役層は、学校の指導を待たずともハローワークに行くなど、自らの意思でどんどん進んでいってくれる人もいます」と工藤氏は語る。