大学無償化制度利用でのFラン大進学、「高卒で就職より1000万円損」の訳 強い進学志向と「修学支援制度」の不条理とは
進学した友人が言った「私も就職すればよかったな」
超売り手市場の昨今、企業は高卒者の採用でも待遇を上げている。プライベートを重視する若者は、休日数や有休消化率を見て会社を選ぶからだ。だが、そんな状況でも、高卒採用を取りやめた企業もある。理由は「すぐに辞めてしまうから」。
「高卒就職の大きなメリットとして、ほぼ100%正社員で採用されることが挙げられます。4年間のアドバンテージもあり、生涯賃金では大卒者と遜色ないという企業も多くある。しかし早期退職して非正規雇用に転じると、一気に貧困のスパイラルに陥ってしまうのです」
このリスクは、漫然と「入れる大学」に進学した場合も同様だ。過去には奨学金の返済義務を負って社会に出るという、マイナスからのスタートも取り沙汰されてきた。修学支援制度を使えばその点の不安は解消されるが、大学や専門学校の入学難度と中退率は反比例する傾向にある。卒業できればまだいいが、中退してしまえば返済が必要になり、その先に待つのはやはり非正規雇用の負のループだ。
澤田氏が訴えるのは、社会全体が、仕事の見方を変えなければいけないということだ。冒頭のスマートフォンの例もそうだが、日本の生活を支える技能労働者へのリスペクトが圧倒的に足りない、と強調する。
「ビルの中でパソコンに向かうだけが仕事ではありません。タワーマンションに住みたいと憧れるだけでなく、その建物がどうやって造られているかにも興味を持ってほしい。建設業も製造業ももっと給与を支払うべきだし、教員の給与も低く抑えられていると思います」
都市部ほど進学の同調圧力があり、社会を知らない若者が自分の意思で仕事を選ぶのは難しい、と同氏は語る。そんな中でも、高卒で近畿圏のラーメン店に就職した女性のことを話してくれた。進学しないことには葛藤もあったが、卒業して5、6年が経ち、彼女は店長に昇格していた。年収も20代前半で400万円を超えた。高校時代の友人に久しぶりに会ったところ、その友人は大学の奨学金を返済しながら彼女より安い賃金で働いており、「私も高校出て就職すればよかったな」と言ったそうだ。
希望する誰もが進学できることはすばらしいことだ。だが本当に実現すべきなのは、進学してもしなくても、誰もがきちんと働いて暮らしていけることではないだろうか。
(文:鈴木絢子、注記のない写真:maroke / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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