大学入試は「歴史総合」が潮目、高校授業に期待する「歴史実践」の神髄は ルーブリック採点など工夫、正解つくると危険

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これまで暗記重視の教育が行われてきたことで、歴史を学ぶ学生の質が低下しているのではという見方もあるが、大学側はどう感じているのだろうか。

「多くの私立大学では典型的な暗記型入試が続く一方で、入試がない総合選抜型も増加しており、学生の世界史の知識レベルは本当にバラバラです。ただ、大学の歴史が資料を読み取って考えるような授業だと知って、目を開かれた思いをする学生も多い。歴史は面白い学問なのだと再発見してくれる学生もいるのです」(鈴木氏)

「私は、必ずしも今の学生の学力が低下しているとは思いません。大学で歴史を学ぶときに無駄な知識はないほうがいいこともある。例えば文化人類学や社会学は、高校ではなく大学で無駄のない面白い授業を展開してきたことで学問として魅力発信に成功しました。その意味で、高校も知識にとらわれすぎず、多様な授業を行ってほしいです」(桃木氏)

歴史教育が政治的良識を養う、一方で教科書の過積載は課題

では実際に、大学側は高校での歴史総合において具体的にどのような授業を期待しているのだろうか。

資料やデータなど根拠に基づいて考える力を身に付けてほしい。同じ資料を見ているのに異なる意見が出る場面を体験して議論したり、そもそもの資料やデータすら批判的に見ていく。こうした歴史を学ぶ『姿勢』を身に付けることが何より大事なことだと思います。同時に、考えたことを書く能力も必要でしょう。私の授業では、毎回リアクションペーパーを提出させています。最初は2~3行しか書けなかった学生も、回数を重ねると何十行も書けるようになります。高校の授業でも実践してみてはいかがでしょうか」(若尾氏)

「先生の中には『知識がなければ歴史を学ぶことができない』と言う方もいます。ただ、歴史に1つの正解があるという考え方は、独裁政治を正当化することにつながらないでしょうか。歴史教育は政治的な良識を養う側面もあります。高校生も18歳になれば選挙権がありますね。極端ですが一党独裁に向かわせることがないよう、その知識を学ぶ意味や意図についても考える必要があるでしょう。また、歴史を自分事として捉えることも欠かせません。私たちは、歴史の結果としての今を生きています。いやが応でも、歴史は私たちの人生に関わってきますから、『歴史実践』の感覚は持つべきものなのです」(桃木氏)

期待が高まるゆえに、教科書には従来以上に知識が詰め込まれ過積載だという指摘もある。この点、大学側はどう考えているのか。桃木氏が続ける。

「実は2017年にも高大連携で歴史用語の精選を試みる動きがあったのですが、大変難航し断念されました。実際、すべての教科書が載せている用語に絞ってもすでにパンク状態ですので、さらに制限するのは非常に難しい作業です」

例えば欧米の歴史教科書も非常に分厚いのですが、何もすべてを授業で扱うわけではないのです。ただ大学入試の範囲を考えると、未学習分があると生徒や保護者が不安になるのも当然でしょう。実態に即して高校と大学で考え直す必要があるかもしれません」(鈴木氏)

大学入試の議論も開始、採点はルーブリックなど工夫を

歴史総合を反映させた大学入試は2025年度から始まる。鈴木氏と若尾氏が続ける。

「今後、少子化が進む中で従来のペーパーテスト式の一般入試による入学者は減少するでしょう。受験対策の内容も変わっていくはずです。歴史総合の入試問題もこの流れの中で考える必要があります」(鈴木氏)

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