多数派の日本人の中で、「外国にルーツを持つ子ども」をどう指導すべきか 教員の変化が重要、横浜の市立小での取り組み
「ひらがなの『り』や『さ』などは、実際に書くときの形と、印刷物で使われるフォントの形が違うことが多く、これも『やさしい日本語』に改めていく必要があります。子ども向けのプリントには、多くの人にとって読みやすい『UDデジタル教科書体』を使ってもらうよう、先生方にもお願いしています」
テストなどで視認性の高いフォントを使うことにより、日本人の子どもの正答率も上がるというデータが出ていると言う。菊池氏の取り組みは、日本人にとってもメリットが多いものばかりだ。

菊池氏が国語科教員に作り直してもらった低学年向けのプリント。上が修正前の明朝体、下が教科書体
菊池氏は、ある研修で講演した際「ものすごくショックだったことがある」と言う。
「行政の管理職研修に招かれた際に、これまでの多文化共生の学校づくりや母語教育などの取り組みについてお話ししたときのことです。聞き終えたある方が『貴校や菊池先生の取り組みは確かにすばらしい。でも母語ができても、母国に誇りを持っているからといっても、日本でいい大学や会社に入れますか? 早く日本語を覚えて日本文化に適応できるほうがいいんじゃないですか?』と言われたのです。本当にショックを受けました。ボランティアの尽力などにより、マイノリティーの子どもの支援がうまく回ってきている地域も多くあります。でも課題は彼らを認めてくれる受け皿が少ないこと。講演を受けていたその人の言葉が、日本社会のかたくなさを表している。一人ひとりが変わっていかなければ状況は変わらないと思います」
難民の問題も同様だ。ロシアの軍事侵攻以降、日本はウクライナ人の難民を受け入れている。だが「日本は受け入れるだけで、しばらくすると支援を打ち切ってしまう。そうすると彼らはボランティアの支援に頼るしかありません。自立できるまで支援を続けること、その後の彼らを受け入れる社会であることが重要だと思います」と菊池氏は語る。
取材の最後に、菊池氏は「ホノルル国際空港の今の名前を知っていますか?」とクイズを出した。2017年に改称された同空港の正式名称は「ダニエル・K・イノウエ国際空港」。日系人ながら50年近く米国の上院議員を務めた、日本名・井上健氏にちなんだものだ。
「ハワイでは、日系2世であるイノウエさんの活躍を認めて空港の名前にまでしました。日本ではどれだけ活躍したとしても、『グエン空港』とか『チャン空港』といった空港が生まれることはないでしょう。日本人だから、何人だからではなく、頑張った人が認められる社会になってほしいと思うのです」
(文:鈴木絢子、撮影:大澤誠)
東洋経済education × ICT編集部
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