井上:今後の課題はどこにあるでしょうか。
南部:僕は、カーボンニュートラルだけで地球環境が保全されるとは思っていないんです。むしろ、地球温暖化の直接的な課題は排熱ではないかと思うんですよね。
人間が生きている限り、排熱を出さざるをえないのですが、それを少しでも有効活用することによって、排熱量を減らし温暖化を防げることに注目すべきだと思います。
今はまだ技術的に未熟だから、フレキーナの発電効率は10%弱です。でも将来的には、熱電発電で工場の周辺機器を動かせるようにしたいと思っています。機器ってみんな直流で動いているので、それらをつないで工場単位の直流給配電システムによる小さな分散型電源システムをつくるのが一番合理的だと思います。
IPOに関しては2027年度を目指して進めています。だいたい30億円の売り上げで、約5億円の収益を上げることを目標に進めています。
将来の出資も見据えて、2022年からCOOの岡嶋道生に代表取締役COOに就任してもらいました。彼もパナソニック出身ですが、創業時からボランティアで支えてくれた創業メンバーです。
新工場が増える海外のほうが導入しやすい
グローバル展開については、現在進行形です。海外を目指そうと思い、2022年度に営業担当のインドの方を採用しました。
今、僕らがやっている技術のニーズは、海外のほうが大きく、展開も早いかもしれないです。例えば、新しい工場がどんどんできている国や地域だと、IoTの導入もずっとやりやすい。僕らのIoT用自立電源もそこに入れていくことができる。
逆に素晴らしい工場でも、すでにできてしまったところに、新たに配線し設置するのはすごくコストがかかり大変なので。
井上:確かにSDGsやIoTに積極的な国や地域に響きそうですね。楽しみにしています。
Eサーモジェンテック 設立:2013年2月 所在地:京都市南区 資本金:3億2672万円 社員数:34人 投資ラウンド:シリーズB(2023年3月時点)
経営学者・井上達彦の眼
スタートアップにとってのいい仕事というのは、こちらから出向いて営業をこなすことではない。むしろ、顧客から声をかけてもらう状態をつくることが大切だ。これを「積極的な受け身の営業」という。
この営業を実現するためにもっとも有効なのが、特定分野のナンバーワンになるという戦略である。この戦略によって得られる求心力は、ディープテックのスタートアップの成長の鍵となる。
第1に、人材が不足していても、営業努力なしにたくさんの事業機会を得ることができる。
第2に、現場でしか得られないニーズを持ってきてもらえる。ここには質の高い情報が含まれている。
MITのエリック・フォン・ヒッペル教授は、これを情報の粘着性として概念化した。それは、ある場所から別の場所に情報を移転させるのにどれだけコストがかかるかを示したものである。情報量が豊かで、複雑で、暗黙のものであればあるほど粘着性は高い。
しかし裏を返せば、このような情報にこそ意外なニーズやイノベーションのヒントが隠されているというわけだ。ときにユーザーがイノベーションの発生において重要な役割を果たすのは、このような情報を持っているからだといわれる。
イノベーションというのは、強い技術と意外なニーズを結びつけることによって生まれる。両者を結びつけるには、粘着性の高い困りごとを引き剥がして持ってきてくれるような状態を作るのが大切だ。
Eサーモジェンテックの場合、実用性の高い熱電発電モジュールの「フレキーナ」によって求心力を高めることができた。応用すべき課題と解決法のヒントを持参してもらい、共存共栄のパートナーシップによって、より着実かつ安定的に熱電発電のモジュールを世界に広めてSDGsに貢献しようとしている。
名門パナソニックから独立したアウトロー起業家は世界の空を飛ぶことができるのか。若者のみならず、われわれおじさん世代にも、そのかっこいい姿を見せてほしいものだ。
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