不登校特例校の先駆け「高尾山学園」、登校率約70%・進学率95%超の理由 大人が徹底して寄り添う組織体制を独自に構築
こうした子どもたちの成長を支えるのは、「自己肯定感」だ。同校の児童生徒の中には、ゲームをする体験は多いものの、学校行事や衣食住に関する生活体験、人と関わる経験が少ない子もいる。そのため、教員たちは遊びや運動、協力し合う要素などを教育活動に盛り込み、いろいろな体験を通じて自己肯定感が高まるよう工夫しているという。
「例えば、中3で初めて鬼ごっこをやったという子もいます。今後実現したいのが、子ども食堂と連携した放課後のティータイム。『おいしい』は子どもの登校意欲を高めるキーワードなんです。以前、ある先生が夏休みの登校日にバーベキューをやってみたところ、ほぼ全員が参加しました。工場見学もいちご狩りとセットにすると参加率が上がります。五感を刺激され、楽しいひとときを周囲と共有できる体験は重要です」
コロナ禍以降、黒沢氏はさらに体験や対面の重要性を感じているという。
「本校は少人数ということもあり、コロナ禍でも修学旅行などの活動ができたのですが、3割が欠席。オンライン授業でクラスの子は顔見知りなのに『知らない子とご飯を食べたくない、泊まりたくない。ならば学校で勉強します』と言うのです。ICTは自学自習には有効ですが、人との適切な接し方はオンラインだけでは学べないのでしょう。GIGA端末はもちろん、デジタル教科書なども活用していますが、今後も『対面』を大切にしていきます」
実績のある同校にも、不登校特例校向けの人事制度や、教職員の人材発掘および育成の仕組みの整備など課題は多くあるが、「本校のような教育がほかの学校でも行われれば、不登校は減ると思います」と、黒沢氏は語る。
「これまでの学校教育に合わない子は、少なくとも習熟度に合わせて学べるといい。例えば小学校から単位制や飛び級を導入するなど、かける時間もフレキシブルにできればさらにいいですね。また、中卒でも就職できる社会環境は必要だなと思います。このあたりを整えていくと、『誰一人取り残さない教育』に近づくのではないでしょうか。そういう意味では、学習指導要領も見直す時期に来ていると思います」
一人ひとりに寄り添い続ける高尾山学園。約20年にわたって積み重ねてきたその教育のあり方は、ほかの不登校特例校だけでなく、子どもに関わるすべての大人にさまざまな示唆を与えるはずだ。

八王子市立高尾山学園小学部 中学部校長
東海大学工学部電気工学科卒業。東芝エンジニアリングでITエンジニアとして勤務後、オリンパスで企業戦略の業務などを担当。八王子市立第六中学校PTA会長、八王子市立中学校PTA連合会会長、八王子市育成指導員なども歴任。八王子市民間人校長公募を経て、2013年より現職。令和4年度 文部科学省 中央教育審議会 教育振興基本計画部会臨時委員および特別部会義務教育ワーキンググループ委員
(文:吉田渓、注記のない写真:大澤誠撮影)
東洋経済education × ICT編集部
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