先生になる人の傾向に見る「教育格差」問題の盲点、現場に必要な教育社会学 教育格差の実態とメカニズムを学ぶべき理由
総じて、現行の学校教育と親和性が高い人たちが教職を選び採用されてきたといえる。一方、日本全体の児童生徒はさまざまである。教員が社会全体の中で「ふつう」ではないことそのものが悪いわけではない。ただ、少なくない児童生徒は、社会経済的に恵まれない家庭出身で、保護者(親)が教師ではなく、中学3年生時点の学力(の自己評価)は低く、中学校でリーダーシップ経験を持たず、大学進学を希望せず、大学に進学しない。これらの経験を多くの教師が持っていないのも事実といえる。
今後、大学進学率が微増するにしても、児童生徒の約4割は4年制大学に進学しないわけで、教師自身とかけ離れた人生を送ってきた親や大学進学を選択肢に入れない児童生徒に教師が寄り添うためには、経験の欠落を知識で埋める機会が必要なはずである。
しかし、大半の大学の教職課程では教育格差に関して体系的に教えていない。全国の大学を対象とした研究によると、社会経済的な課題を教職課程の中で最も扱っていると考えられる選択必修の「教育に関する社会的、制度的又は経営的事項」に関する科目であっても、まともに扱っている授業を提供している大学数は限られる。さらには、科目としてまともに扱っていないだけではなく、体験する機会も提供されていないようだ。
全国教員調査の結果(暫定値)によると、教育実習を母校で行ったという20代の回答は46%で、私立大出身者だと大半は母校で実習している。さらには、「母校ではなく、母校より児童生徒の生活や学習の課題が大きい学校」での教育実習経験者は小中学校、高校の正規任用教諭で10%台にすぎない。学力偏差値別の高校だけではなく公立の小中学校でもSESによる学校間格差があるので、母校や母校のSESと似た学校での実習では教育格差と向き合う機会として不十分なはずだ。また、日本全体を把握するデータはないが、現職教員に対する体系的な教育格差の研修についても聞いたことがない。
さらには、全国教員調査の結果(暫定値)によると、国の場当たり的な2つの教員政策によって、小学校教員になる難易度が学力の面で易化したようである。教員になるのがかなり難しかった40代や50代の教員の経験に基づいた研修の内容では、若年層の成長を手助けできない可能性がある。教師になる層の変容に対応して、上の世代よりかなり手厚い(研修を含む)支援が必要なはずだ。
「教育格差」を体系的に学ぶ科目と研修を必須とすべき
大学入試と採用試験という2つの選抜を行う以上、教師の多くが学校教育と親和的で、恵まれない「生まれ」の児童生徒と同じ経験を持っていないことは当然であり、個々の教師の責任ではない。また、教育実習を含めた教職課程と教員研修で「生まれ」によるさまざまな困難について学ぶ機会が提供されていないことも、個々の学生や教師の責任ではない。教員政策による小学校教員になった層の変容も、個々の教師の責任ではない。これらはすべて政策の課題である。
すべきことは多いが、短期的に実施可能なことは、全国教員調査のデータが描く教師像を前提に、すべての子どもに寄り添い伴走する教師の養成を目標として、教職課程で「教育格差」を科目として必修化することである。また、現職の教員、学校管理職、それに教育行政官に対しても、それぞれの勤務自治体や学校の実態を題材にしながら、「教育格差」を体系的に学ぶ研修を必須とすべきだ。