コロナ禍に食材高騰、「給食費無償化」する・しない自治体の決定的な違いは何か 今こそ「学校教育にかかるカネ」全体の見直しを

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韓国では高校まで給食費無償化を実現、その財源は?

鳫氏は昨年、韓国に約1年間滞在し、学校給食を取り巻く状況を見てきた。例えばソウル市などでは、2021年から高校までの給食が無償化されたという。

「韓国では教育長が選挙で選ばれるのですが、給食の無償化は10年以上前に公約として掲げられていました。やはり財源をめぐっても紆余曲折はありましたが、農業予算を組み入れて国産のオーガニック食材を使う仕組みをつくるなど、食材や予算の調達で工夫して無償化を実現しました。日本の給食関係者は自国の制度に自信を持っている人が多いですが、まだ費用負担については改善の余地があるということが、韓国の例を見てもわかると思います」

葛飾区の給食費無償化の発表を受けて、NHKが23区を対象に行った調査がある。今後の給食費の方針について尋ねたところ、無償化する予定がないと答えた多くの区が理由として挙げたのが、前述の学校給食法11条だった。だが鳫氏はこれについても「そろそろ変えるべき時期」だと言う。

「さかのぼれば、以前は教科書も有料だった時代がありました。それが法律が変わり、1963年度に教科書無償給与制度が整備されて無償になったのです。給食費についても、既存の法律だけが根拠にはならないと思います」

修学旅行の積立金なども同様の問題であり、給食費無償化は「学校にかかるお金全体を見直すきっかけ」として捉えている鳫氏。「これを言うと嫌がられるのですが……」と苦笑しつつ、教職員組合で講演したときの実感を語った。

「横浜市などが21年度から公立中学校の給食を開始していますが、神奈川県は全国的に見ても中学校の給食普及率の低い自治体です。生徒がどんなお弁当を持ってくるかで、同じ教室の中でも格差が生まれていました。学校の先生方はその状況を現場で見ているにもかかわらず、学校給食推進の熱意があまりないような印象を受けました。なくて当たり前だと思っていると、変わるのは難しいかもしれません」

現在の教員の多忙さにも理解を示しつつ、鳫氏は続ける。

「学校は教育の場ですが、教育以前の環境に問題がある子どもがいます。子どもの生活を安定させる福祉的機能につなぐことも、学校の果たす役割の1つではないでしょうか。貧困家庭の子どもは学力も伸び悩むことが多いと思いますが、彼らの環境が改善されれば、例えばテストの平均点も上がるはず。先生方は忙しいと思いますが、まずは子どもたちをよく見る組織的努力が必要ですね」

現在は学習以外のことに集中して子どもを見られる人がおらず、養護教諭やカウンセラー、心ある事務職員などごく少数でしかないことも課題だと言う鳫氏。スクール・ソーシャル・ワーカーの増員も必要だと考えている。

給食費無償化は票にならない後回しの公約ではなく、子どものウェルビーイングに直結する喫緊の課題なのだ。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:fazakit/ PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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