コロナ禍に食材高騰、「給食費無償化」する・しない自治体の決定的な違いは何か 今こそ「学校教育にかかるカネ」全体の見直しを

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「よく無償化の財源はどうするという話になりますが、生活保護や就学援助の制度を使っている家庭の給食費はすでに公費で負担されているので、必要な予算をゼロから確保するわけではありません。ある程度はそうした費用を振り替えながら対応するのですが、方針への影響がいちばん大きいのは、各自治体のトップの意識だと思います。葛飾区は以前から多子世帯などの給食費支援に注力していますし、区長の子育て支援への意識が高いのでしょう」

例えば、すでに全国的に導入されている子どもの医療費支援などは、一時、多くの選挙で公約として掲げられたことで実現されてきた。だがそもそも子どもを扱う政策は票につながりにくく、さらに給食費は医療費に比べて政策上の優先順位が低いのだろうと鳫氏は指摘する。

生活保護や就学援助だけでは困っている家庭に届かない

給食費無償化が必要な理由として、鳫氏は現行の支援が十分に機能していないことを挙げる。代表的な支援である生活保護や就学援助制度は、困窮家庭の捕捉率が非常に低いのだという。

「生活保護も就学援助も申請しないと受けられず、受給するにはいくつもの条件やハードルがあります。支援を受けることに引け目を感じてしまうこともハードルの1つで、本当に支援が必要な家庭に届いていないというのが実情です」

日本以外でも、貧困家庭にのみ給食費支援を行う国がある。例えば米国では貧困家庭のみに給食のチケットを配布するが、鳫氏はこうした方法を「子どもにレッテルを貼る古いやり方」だと断じる。周囲の子どもに支援を受けていることがわかってしまう可能性があるし、現金で支給した場合は、その支援金が必ずしも子どものために使われるとは限らないからだ。

「子育て世帯に対する10万円の支援が決まったときにも問題になりましたが、ネグレクトなどの虐待がある家庭では、振り込まれたお金を親が使ってしまうこともあると考えるべきでしょう」

日本の学校給食法11条では、食材費は「学校給食を受ける児童又は生徒の保護者の負担」とされている。一時期、給食費を「払えるのに払わない」家庭の増加が取り沙汰されたことを覚えている方も多いだろう。だが鳫氏は「払えないのか払わないのかを、第三者が正確に判断することは難しい」と言う。

「自営業で資金繰りが大変だったら、子どものためのお金でも事業に回さざるをえないかもしれません。また、親が税金を滞納していたり借金があったりすると、学資保険も差し押さえの対象になることがあります。もしかしたら、口座に入ってきた児童手当でそれをしのごうとするかもしれません」

これらの例は「払えない」のか「払わない」のか、どちらに当たるだろうか。いずれにしても子どもに責任のあることではない。そして鳫氏は「こうした場合も、学校は『払えるのに払わない』と判断することが多いと思います」と続ける。

「親が給食費を払わないなら、その家庭の子どもは給食を食べられなくても仕方ない――世間にはかつてそんな風潮がありましたが、それも古い考えです。子どもの権利を考えれば、親が給食費を払うか払わないかにかかわらず、子どもの給食に差が生まれてはいけないはずです」

給食費無償化で焦点となる発想は、「現金負担の軽減」ではなく「現物給付による援助」だといえる。学校で「教育」「授業」という現物が授業料の負担なく提供されているのと同じように、「給食」が費用負担なく提供されることが鳫氏の理想だ。

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