小児神経専門医が警鐘、問題生む「不登校=起立性調節障害」という誤解 加藤善一郎「背景に中学校の『かくれ校則』も」
OD単純型に適した治療をしても症状が改善せず長期化する場合は、OD複合型であると考える必要があります。自律神経の異常からくる身体症状であるODと、こだわりの強さや敏感さなど本人の特性が絡み合った病態がOD複合型です。ここが見過ごされているケースが多く、私も情報発信に努めているところです。
最近ではODへの対応をアピールする整骨院が増えるなど、ODがビジネス化している印象もあります。治療の選択肢が広がり救われるお子さんが増えればよいのですが、OD複合型の理解が浸透しないままでは、本来の医療につながれないお子さんが増えてしまうのではと危惧しています。
また、ODと特性はまったく別物なのですが、個人の特性があたかもODの一症状のように見えてしまうので、先ほどお話ししたように「サボっている」などとお子さんが責められる事態も起こりがちです。ODと特性は別物であることを理解し、ODの治療とは別に複合する要因もきちんと診断してケアするという認識が重要になります。
重要な「外的環境」、最も歪みが大きいのは中学校
――OD複合型は、どのように診断するのですか。
私の外来ではWISC(ウィスク)検査を行うことが多いです。よく発達障害を診断するための検査と誤解されますが、これは知的作業をする際の「知的な個性」を知るための検査。言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度という4つの指標と総合IQ(知能指数)を数値化します。
どれか1指標だけ突出して数値が高かったり低かったりする場合は「知的アンバランス」の状態と判定されます。たとえ総合IQの数値が高くてもアンバランスな状態だと、苦手な領域が得意な領域の足を引っ張り、感情や考え方が混乱するなど「困り感」が強くなります。
このほか、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの発達特性も調べます。ちなみに私の外来の患者さんは、不登校が長期化している子がほとんどです。ODと知的アンバランス、そしてASDが絡んでいるケースが全体のおよそ95%を占めており、ODの治療とともに発達特性に対する治療も行い、知的アンバランスに配慮しながら内的環境を整えます。
――OD複合型の場合は治療期間が長くなるのでしょうか。
そうですね。私の外来では、親御さんには「1年以内に手放しで学校に行けるようになるとは思わないでください」とお話しします。実際、登校が始まっても1年以内に何もサポートしなくても大丈夫という状態にはならない場合がほとんどです。
なぜなら、中学校に入って不登校になったとしても、実は小学校の頃から登校渋りがあったり、登校はできていても本人の中で不安や緊張がずっとたまっていたりというケースがほとんどだからです。この場合、長期にわたる我慢が中学校に入ったタイミングで限界に達して不登校になったわけですから、単純型のように数週間で元に戻すことはほぼできませんし、そうしてはいけないのです。
――時間をかけて治療すれば、ODは完治しますか。
完治ではなく寛解のイメージです。OD単純型のお子さんの場合は高校に進学し、服薬をやめても元気にしている方はたくさんいらっしゃいます。ただ、花粉症と同様に体質は残るので、大学に行って夜更かしを始めたことを機に状態が悪くなるなどもあります。とくに睡眠リズムが崩れると調子は悪くなりやすいです。