台湾包囲の軍事演習で中国が抱えた「ジレンマ」 中台関係に詳しい東京大学・松田康博教授に聞く

✎ 1〜 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 最新
拡大
縮小
訪台したペロシ下院議長
台湾を訪問したアメリカのペロシ下院議長(写真:2022 Bloomberg Finance LP)

特集「緊迫 台湾情勢」の他の記事を読む

アメリカのペロシ下院議長の訪台に激しく反発した中国は、8月4日から7日にかけて台湾を取り囲むように大規模な軍事演習を実施。その後も軍事演習を継続したほか、航空機や艦船を台湾周辺に送り揺さぶりをかけ続けている。
中国の強圧的な姿勢は今後どうなるのか。台湾や日米などはそれにどう対応していくべきなのか。台湾政治や中台関係に詳しい東京大学の松田康博教授に聞いた。

――中国は台湾を取り囲む大規模な軍事演習を行い、1995~1996年以来の危機として「第4次台湾海峡危機」と呼ばれ始めています。

中国がこれだけ大がかりに反応したのには、主に3つの目的がある。

1つは、先進国の高官が台湾を訪問する流れを止めたい。これは1995年の状況と似ている。当時、台湾の李登輝総統が訪米し、アメリカが関与して孤立していた台湾が国際社会で活動空間を広げようとした。ただし、中国が軍事挑発をすれば、次が続かなくなる。

2つ目は、中国が演習の目的を「台湾独立派を震え上がらせるため」と明言にしているように、台湾の人心を変えるという台湾向けの目的。

そして3つ目は、中国国内向けの政治的必要性からくる目的だ。習近平国家主席は今年の秋に予定されている党大会で党トップの3選を狙っている。指導部人事など、これから詰めに入る段階だが、ゼロコロナ政策や米中関係の悪化など批判されうる材料が多い中で、ペロシ議長に訪台され、メンツを潰された。

ここで、「アメリカに対して弱腰ではない」と国民も煽り、反米や台湾独立を叩く姿勢により軍を使って国内を盛り上げて自らへの反対を抑えようとした。これは2012年に日本政府が尖閣諸島を購入した際と似ている。当時は習氏が総書記に選出される党大会を控えていた時期であり、尖閣諸島での領海侵入や反日暴動を許した。

中国による台湾への接近行動が増える可能性

最大の目的は、3つ目の国内向けだろう。ウクライナ戦争で世界が中国も台湾を攻撃するか懸念している中、今回の演習で中国は怖い国であると世界に見せつけてしまった。

次ページ台湾は中国の圧力に対応できるか?
関連記事
トピックボードAD
連載一覧
連載一覧はこちら
トレンドライブラリーAD
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
特集インデックス
緊迫 台湾情勢
米中対立、「台湾」が緊迫の焦点となる2つの事情
テクノロジー覇権争いと民主主義の重要なカギ
中国の「台湾侵攻」に日本が備えておくべき理由
「巻き込まれたくない」という話では済まない
中国が悲願の「台湾統一」へ使い分ける2つの手段
軍事行動に限らず現地協力者を通じた迂回策も
台湾TPP加盟申請で問われる「岸田新政権」の手腕
中国が先に申請したことで揺れる台湾政府
TPP加盟申請で激突、台湾と中国に求められる条件
国際政治と経済分野の識者はこう見る
台湾の最大野党が「蔡英文」の牙城を崩せない憂鬱
民意と乖離目立つ対中姿勢、カギは経済の議論
ウクライナで「台湾侵攻」の可能性は高まったのか
問われる戦略的価値、日本の当事者意識も重要
バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意
日本として対応を平時から議論しておくべき
ペロシ議長を歓迎した台湾に残された爪痕と自信
いたずらに緊張高めたが抑止強化は続けるべき
台湾包囲の軍事演習で中国が抱えた「ジレンマ」
中台関係に詳しい東京大学・松田康博教授に聞く
台湾人はなぜ地方選で親中政党を支持するのか
巨大権力警戒、日本人が知らないバランス感覚
国民に嫌われた台湾与党「民進党」は復活できるか
傲慢さと驕りを反省し謙虚さを取り戻す必要
台湾総統選、どん底から立ち直った民進党の実力
民進党は序盤の優勢をいつまで継続できるのか
米中の戦略は台湾総統選にどう影響しているのか
冷静な台湾社会で「疑米論」が広がるか焦点に
台湾の国民党が「親中」と呼ばれている数奇な経緯
敵対していた中国共産党との協力は約20年前に
知っているようで知らない「台湾独立」の真の意味
中国の情報戦で誤解も広がる重要キーワード
それでも世界の電子産業は台湾から離れられない
サプライチェーンの再編も台湾企業頼み続く
台湾総統選まで半年、第3候補は本当に躍進するか
支持率3位の候補が二大政党に食い込む波乱
台湾総統選で第3候補が意外な人気を集めた背景
受け答えのうまさと裏腹の失言という弱点
中国に「悪夢」?カリスマ経営者の台湾総統選出馬
利益誘導の限界露呈、民進党3期連続が現実味
台湾総統選、「8月決戦」の結末は与党候補に軍配
勝算なき著名実業家の参戦で混迷する野党勢力
台湾総統選、ラスト3カ月で劣勢野党の逆転あるか
難しい野党連合の実現、与党優勢で攻防続く
ハードウェアの強みを生かし世界の企業と接点
台湾総統選に大異変、急転直下の野党統一候補へ
選挙戦仕切り直し、野党連合は最後までもつか
台湾総統選、野党連合「ドラマ」終幕から3者競争へ
与党のリードは続くか、選挙戦はどう動くか
台湾総統選まで3週間、野党逆転・中国介入あるか
終盤戦を左右するのは突発的事態や外的要因
台湾・国民党への日本の懸念と期待は行きすぎだ
見るべきは「政党」ではなく台湾の「民意」だ
台湾総統選の争点には「92年コンセンサス」も
米中間で絶妙なバランス感覚をもつ台湾の有権者
台湾では中国との距離感が対立軸としてある
台湾の人たちは次の4年をどのように選んだのか
2024台湾総統選、小笠原欣幸の完全徹底解説
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT
有料法人プランのご案内