オミクロン変異株の感染急拡大で、ゼロコロナ政策を掲げる中国政府は最大の難関を迎えている。
春先でも摂氏4度と肌寒さが残る、中国東北部の吉林省吉林市。新型コロナウイルスの無症状感染者である大学生の劉佳は、防護服を身にまとい、その上からかばんを背負って座っていた。
病院の廊下では、ときおり咳払いの音が響き渡る。3月11日、PCR検査で陽性と診断された吉林農業科技学院のほかの学生とともに、劉は学校の図書館から吉林医薬学院附属465病院に搬送された。
劉は看護師から渡された採血管をポケットに入れて、昼も夜も待ったが、誰も精密検査をしてくれなかった。劉の周りにいた女性数人は、家族に動画を送り、声を詰まらせながら泣いていた。
3月6日、劉の斜め向かいの寮の学生が陽性と診断された。劉は準濃厚接触者として大学構内にある図書館の4階で隔離され、ほかの17人の接触者とともに、机の上で寝泊まりすることとなった。
「寮全体がとても混乱していました。私たちは陽性と診断された学生をまったく知りませんでしたが、2日後に私自身も陽性になっていました」。その日、吉林農業科技学院は最初の症例を報告し、学校全体が封鎖された。
封鎖措置を取っても追いつかない
(吉林市から)100キロメートル離れた吉林省長春市では、九台十二中学校に通う賀小煒(フゥー・シャオウェイ)のもとに、3月5日の晩に学校から通知が届いた。「授業を直ちに中止し、(校内にいる)全員に対して帰宅を求める」という内容だ。
そのとき、賀は身の危険を感じていなかった。中学校では4日と5日に、全員に対して2回PCR検査を行い、何も異常がなかったからだ。しかし8日の午前中、頭痛が始まり、37.6度まで熱が上がった。9日に賀には陽性の診断が出され、その後ほかの6人のクラスメイトも陽性と診断された。
多くの学校における感染拡大は、今回の中国本土での感染拡大の「縮図」とも言える。(学校から)最初の症例の報告があったときには、集団感染がすでに発生し、感染経路は錯綜して複雑化している。すぐに封鎖措置を取ったとしても、数日中に感染者が指数関数的に増加することを阻止するのは難しい。
(中国全土を見ると)中国本土と香港の往来が最も多い広東省深圳市が、最初に(オミクロン変異株の)感染拡大地域となった。2月12日以降、深圳市では新規感染者数が「ゼロ」の日がなく、最初の2週間の新規感染者数は1桁で推移していた。ところが2月末になって、感染者数は突如2桁に上昇した。
遠く離れた吉林省は、最終的に嵐の中心となった。2月28日、延辺朝鮮族自治州琿春(こんしゅん)市では、「検査をするべき」人たちの中から、PCR検査の検体採取で陽性と診断された人が1人現れた。後にそれはオミクロン変異株の1つであるBA.2に感染したものであることが確認された。ロシアと北朝鮮の国境にある人口20数万人の小さな市は、3月1日に直ちにロックダウンを宣言した。
吉林市と長春市で大規模感染が発生
しかしオミクロン変異株はすぐに吉林省内全体に波及し、吉林市と長春市で大規模感染が発生した。吉林市では3月3日に感染者1人と無症状感染者3人が報告され、3月9日に新規感染者数は283人となった。武漢市を除いた中国本土において、吉林市は2020年以来1日の新規感染者数が200人を超えた、初めての都市となった。
その後も引き続き増加し、3月12日には新規感染者数は1268人になった。長春市では1日の新規感染者数が3月11日に100人を超え、翌日には873人になった。
中国全土の状況に目をむけると、3月1日~17日までに、27の省で感染が拡大した。福建省、遼寧省、陝西省、河北省、甘粛省など10以上の省それぞれで200人以上の感染者が確認された。中国全土で累計2万5420人の陽性者が報告された。感染者数においても、流行の範囲においても、武漢市での感染拡大以来の最高記録を更新している。
「早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療」に重点を置き、地区別の封鎖管理、人流の遮断を主な手段とする中国の「ゼロコロナ」戦略。実施から2年後になぜ最大の難関に突然ぶつかったのか。
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