延べ1兆円もの開発費をかけたスペースジェットの開発を大幅に縮小することになった三菱重工業。同社が描く「日の丸ジェット」の夢は、いったいどこで間違ったのか。
「スペースジェットの仕事は来るものだと思わないでほしい」
11月、名古屋市内に集められたスペースジェット開発に関わる協力会社の幹部たちは、三菱重工業の担当者からこう告げられた。
三菱重工は10月30日、開発が遅れている国産初のジェット旅客機「スペースジェット」の開発を大幅に縮小することを発表。計画から事実上撤退することになった。三菱重工の泉澤清次社長は「開発状況と市場環境を踏まえて、M90(スペースジェット)の開発活動はいったん立ち止まる」と述べ、早期の事業化は困難であることを認めた。
中小下請けの死活問題
三菱重工はこれまで、スペースジェットの開発に延べ1兆円もの開発費をかけ、すでに3900時間超の飛行試験をこなしていた。あとはアメリカ航空当局の認可を得るだけという段階まできていたが、試験飛行を伴う開発活動を停止し、2022年3月期以降の3年間の開発費はわずか200億円に抑える。この金額は2021年3月期までに費やした開発費3700億円の20分の1にすぎない。
三菱重工は、スペースジェットを量産する一大拠点として、アメリカの航空大手ボーイング向けの部品を製造する東海地区を想定して、地元の中小企業に協力を求めてきた。「元請けである三菱重工からの依頼。断るという選択肢はなかったし、開発当初は新しい産業を作るという夢もあった」。当時を知る協力会社の幹部はそう振り返る。
地元、愛知県や名古屋市は航空機産業に関わる企業によるコンソーシアムを設置。航空機関連の企業が集積する産業クラスターとして、すでに大きく成長しているフランスのトゥールーズやアメリカのワシントン州の産業団体と連携を取りながら、自動車に次ぐ巨大産業として航空機を育てる施策を進めていた。
三菱重工のような大企業と違い、体力の劣る中小企業にとって新型コロナウイルスによる逆風は死活問題だ。仕事は大きく減少し、1週間に2~3日しか工場を稼働できない企業もあるという。そこに、スペースジェット向けに当て込んだ投資負担ものしかかる。現在は各種の緊急融資や給付金でしのいでいるが、「年明けから資金繰りに窮するところも出てくる可能性がある」(地元関係者)という。
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