常識破りの「2枚看板店」、ワークマンの大胆な挑戦 時間帯によって店舗が〝変身〟

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

一段の成長へ新施策を打ち出した。

「W'sコンセプトストアさいたま佐知川店」は看板や照明を時間帯によって変えることができる。職人と一般消費者を同時に深耕する(撮影:尾形文繁)

快走を続ける作業服チェーン「ワークマン」が、奇抜な店舗を打ち出した。ワークマンさいたま佐知川店を改装し、新業態の「W'sコンセプトストア」として3月19日に開業したのだ。

この店は、時間帯ごとに看板や内装を変化させることができる。内外装の変化により、建設作業員などの職人が主要顧客のワークマンと、アウトドアなどで使えるPB(プライベートブランド)を強調し、一般消費者の顧客が多い「ワークマンプラス」を同じ店内で展開することが可能になる。

さいたま佐知川店では、午前10時になると壁面の大型スクリーンに「今からお店を変身よ!」というキャッチフレーズが流れ始める。すると「WORKMAN」と書かれた店舗の看板が「WORKMAN Plus」に、ゆっくりと変わっていく。

同店は、午前7〜10時と16時半〜20時はワークマンとして営業。その際は、一般的なコンビニなどと同じ白い照明で店内を照らす。10〜16時半の間はワークマンプラスとして稼働し、店内照明を落ち着いた雰囲気のオレンジ色に変える。

看板や照明の変化は、人手を介さず自動で行われる。変化するのは店舗外観や雰囲気だけで、約1700アイテムある品ぞろえは同じままだ。

ワークマンは今回の改装により、従来1億円強だった同店の年間売上高を3億円へと引き上げる算段だ。当面は実験店という位置づけだが、売り上げの推移などを見て、他店舗への展開も検討するという。

職人の離反を懸念

ワークマンは2018年からワークマンプラスの出店を開始。既存のワークマンと品ぞろえは変えずに、商品陳列の工夫により職人だけでなく一般消費者も商品を選びやすいようにした。

同時に、白を基調にした店構えに変え、女性客が入店しやすい雰囲気を演出。ワークマンは店舗の9割超がフランチャイズだが、今年の2月末時点で全国856店舗のうちワークマンプラスは157店舗に達した。

ワークマンプラスの新店効果で、業績は絶好調だ。20年3月期業績は売上高905億円(前期比35%増)、営業利益189億円(同39%増)と、共に過去最高を更新する見通し。既存店売上高も、新型肺炎が猛威を振るい始めた2月でも前年比で27%増だった。

飛ぶ鳥を落とす勢いのワークマンだが、なぜ2つの看板を掲げる店舗を出そうと考えたのか。

ワークマンプラスが多数のメディアで取り上げられ、一般客に認知が広がった結果、通常のワークマンの店舗に「ワークマンプラスは近隣にないのか」といった問い合わせが急増した。ワークマンもワークマンプラスも同じ商品を取り扱っていることを顧客に説明しても、理解が得られにくいケースも多かった。今回の新店では日中にワークマンプラスの看板を掲げることで、こうした一般客の需要を確実に取り込む狙いがある。

他方、「職人さんの中には、ワークマンプラスの(カジュアル感のある)雰囲気を嫌がる人が一定数いた」(ワークマン・土屋哲雄専務)。一般客の需要が急増しているとはいえ、現在もワークマンの売り上げの6〜7割は職人らによるもの。その職人にとっては、商品の素材感など細部もチェックしやすい、白い照明の通常のワークマンのほうが、使い勝手がよい。

一気呵成にワークマンプラスへの改装を進めると、職人の離反を招く可能性もある。そうした懸念の中で、一般客と職人の双方が利用しやすい店舗設計を考え抜いた結果、今回の新店開業に至った。

新店をテコにさらなる成長を狙うワークマンだが、課題として残るのが、急拡大に伴うインフラの整備だ。取り扱う在庫量が膨大になったため、既存の3つの自社倉庫はキャパシティーが限界になりつつある。ドライバー不足を背景とする配送専用トラックの確保も悩みで、倉庫の再配置を含め物流網全体の設計を早急に練り直す必要がある。

一般客の需要も狙ってアウトドア利用などを意識したアイテム数が増えていけば、在庫管理の精度向上も求められる。現在、各店舗の過去の販売動向やトレンドに基づいてアイテム別の最適な在庫量を予測できる自動発注システムの導入を進めている。年内には全店に設置する見込みだ。

国内の作業服市場は建設作業員らの高齢化や減少により、中期的には縮小が見込まれる。そこから一歩踏み込み、一般客の需要をつかんだのがワークマンだった。

新店の運営をうまく軌道に乗せ、拡大に伴う課題を乗り越えた先には、もう一段の成長が見込めそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD