原因は半端な改革だけか 必要な顧客本位の視点
評者 上智大学経済学部准教授 中里 透
「銀行よ、さようなら、証券よ、こんにちは」。昭和30年代の「投信(投資信託)ブーム」の頃、こんなフレーズが流行った。だが、それから半世紀以上経った現在でも、家計金融資産の過半は現預金であり、株式や投資信託などを通じた資産保有の多様化は、大きく進展したといえない状況にある。これはなぜなのだろうか。
「貯蓄から投資へ」が謳われる中、さまざまな制度改革が実施され、銀行と証券の垣根は格段に低くなったが、このような制度変更は日本の金融システムにどのような影響を与えたのだろうか。
本書はこれらのことを考えるうえで興味深い1冊だ。
著者によれば、1990年代以降に進められてきた一連の金融制度改革(金融ビッグバン、ペイオフ解禁、郵政民営化、金融商品取引法の制定など)は、「貯蓄」(預貯金)から「投資」(株式・投資信託など)への資金移動を促す方向に働くはずの制度変化であった。だが、制度改革が中途半端なものにとどまったことや、金融商品の選択において家計が安全性を重視する姿勢が根強いことなどのため、「貯蓄から投資へ」には十分な進展がみられなかった。
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