渡部昇一氏の表現法が優れている背景には、同氏のカトリック的な世界観がある。キリスト教神学の基礎訓練を受けている筆者には、渡部氏の根源的な思考法がよくわかる。プロテスタンティズムが近代的な世界観と上手に折り合いをつけたのに対し、カトリシズムは本質において近代に対して懐疑的だ。プレモダン(前近代的)思考をしているともいえる。それゆえに近代的思考が袋小路に陥っている現状では、近代の枠組みにとらわれないカトリック的思考の強さが現れる。
渡部氏の場合、それが近代科学の分析的思考に対する批判という形で現れている。〈現代社会が拠(よ)って立つ思考は、何と言っても近代科学思考です。戦後の教育も私たちの物事に対する考え方も、言い換えれば私たちの脳自体が、このあくまでも一つの思考法にどっぷりと浸からされている恐れが多分にあることを、私たちはまず認識しておかなければなりません。/さて、この近代科学思考の一番の大本を思想史的に遡ると、ソクラテス(前四六九頃~前三九九年)からの二つの流れの一つであるアリストテレス(前三八四~前三二二年)の哲学に辿り着きます。アリストテレスの哲学の特徴を一言で言うと、それはアナリシス(analysis)と言われています。アナリシスとは分析のことです。〉(渡部昇一『知的人生のための考え方』PHP新書、2017年、30ページ)
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