井上ひさし氏は、筆者と米原万里さんが親しいということについて、当初、情報を持ち合わせていなかったようだ。井上氏が米原さんに「すごい本が出た」と言って『国家の罠──外務省のラスプーチンと呼ばれて』(2005年、新潮社)についての感想を述べると、米原さんは「私は著者の佐藤優をよく知っている」と答えた。米原さんから「井上ひさしさんがあなたと会いたがっている」という電話があったが、実際は米原さんが気を利かせて、筆者が井上氏と知り合う機会を作ってくれたのだと思う。
当時、筆者は職業作家になることを考えていなかったので、躊躇していると、米原さんから「あなたが作家になるために役に立つ話だから、絶対に来なさい」と強い調子で言われた。筆者は「作家になるつもりはないけれど、井上先生の話には関心がある」と答えた。そして、05年5月25日(水)に、米原さんに連れられて井上邸を訪れた。この井上氏との約5時間の話し合いが、筆者の作家人生に決定的な影響を与えた。もっとも、この話し合いの重要性に筆者が気づいたのは、それから2~3年経ってからのことだった。
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