読者から「佐藤さんが、評論家でいちばん信頼しているのは誰ですか」という質問を受けることがよくある。筆者は、躊躇なく「池上彰さんです」と答える。池上氏は、評論家であるという自己規定をしていない。肩書はつねにジャーナリストだ。しかし、第三者的(すなわち客観的)に見た場合、池上氏は日本で最有力の評論家の一人である。
評論家にとって重要なことは、批判的に物事を観察することだ。ちなみに、明治期にドイツ語のKritik(クリティーク)の訳語に批判という言葉が充てられたが、この訳語にはミスリーディングなところがある。「あの人はあなたに批判的だ」と言うと、そこには否定的なニュアンスがある。しかし、ドイツ語のKritik、英語のcriticism、ロシア語のкритикаなどは、否定的ニュアンスを含まない場合もある。相手の主張を対象として認識し、それに対して何らかの評価を加えることがこれらの言葉の意味だ。相手の見解に全面的に賛成する場合もKritikに該当する。それだからKritikには「批判」以外にも、「批評」「評論」という訳語が充てられるのである。
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