バイデン米大統領と欧州各国指導者らにとっての問いは、将来的にどのような世界を築きたいのか、というシンプルなものだ。ウクライナでの戦争は人類の歴史における一つの偉大なエピソードの終わりを告げるのかもしれないが、それは自由主義社会が一体となり、以前よりもっと団結して相互連関を深め、一段と持続的なもう一つのエピソードをつくる機会にもなる。
プーチン、習両氏が招く反グローバル化の流れ
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、グローバル化の動きにとってこれまで加えられてきたよりもずっと大きく、決定的な攻撃となる。西側諸国は対ロシア制裁を打ち出し、各国企業は同国での事業を停止。小麦やニッケル、チタン、原油など商品供給にも混乱が生じている。それは地政学的な変革と資本家の考え方の変化を加速させ、いずれの動きもグローバル化に極めて不利に作用する。
地政学的な変革は「中国」の一語に行き着く。ウクライナでの戦争を受けて、中国の習近平国家主席が中期的な必須事項とするデカップリング(切り離し)はペースを速め、西側諸国への依存から自国を守ろうとするのは確かだろう。西側による断固たる行動がなければ、世界は2つないし3つの巨大貿易圏に向かいかねない。
攻撃される「資本家の大いなる幻想」
同様に重要なのは資本家のマインドセットの変化だ。最高経営責任者(CEO)の観点から見れば、プーチン氏による侵略は過去40年にわたり企業の世界観を支えてきた基本的な前提の大部分を葬り去るものだろう。その前提とは、サミュエル・ハンチントンの著書「文明の衝突」との知的な対抗軸として、「歴史の終わり」の著者フランシス・フクヤマが説いたように、通商・自由貿易は人々の距離を縮めるものであるとの考えに総じて沿うものだった。そして、世界的に事業を展開し、最も効率的なサプライチェーンを築いた企業が繁栄する点も含まれた。
ところが今や、「資本家の大いなる幻想」とも呼べるものが攻撃されている。「ジャストインタイム」の生産で企業帝国を築いてきた企業の経営幹部は「ジャストインケース(万が一に備えた)」経営を検討。外国の工場からの供給が途絶えた場合を想定し、非効率ではあっても生産拠点を本拠近くに新設する方向にある。
さらに、資本家の考え方を変えつつあるのは不安だけではない。強欲も反グローバル化の色合いを帯びている。各国政府が国家安全保障を口実に自国企業優遇を打ち出す中にあって、エネルギーや医薬品、半導体などの産業では競争阻害などの機会をうかがう動きが見られる。