ウクライナ問題、学校や家庭で子どもの「なぜ」にどう答えるか 地球儀を見ながら学ぶ「13歳からの地政学」入門
地政学を一口に言えば、地理的な条件から国際政治の背景や動向をつかむ学問ということになるが、実は定義があるわけではない。そのため田中氏は、「世界のさまざまな場所を見て、そこに住む人たちとその周辺に住む人たちとの関係性を、地球儀を見ながら考える学問である」と定義している。
「30年前と異なり、日本は世界の大国の1つになりました。日本がどう思おうが世界はそう見ています。やる気になれば独自外交もできるし、世界に貢献できる高いポテンシャルも持っている。そんな国に住んでいるからこそ、大人だけでなく、子どもたちにも世界にもっと目を向けてほしいのです。世界を知り、知的なトレーニングを行うことで、これまで自分が当たり前だと思っていたことに深い理由があることがわかりますし、ヘイトのような差別意識からも遠ざかることができるのです」
田中氏は記者として長年世界を見て歩く中で、どの国の人であれ、人間はみんな同じだということに思い至ったという。しかし、こうしたことをきちんと腹落ちして理解している人は意外にも多くはないと指摘する。
「いろんな国に行って、友達や知り合いをつくって、いろんなことを見て、話し、考える中で、私もようやく人間はみんな同じだということを理解できるようになりました。国によって考え方や行動様式が異なるのは、それぞれの国の背景や事情があるからです。そうしたことを知ったうえで外国の人たちと接すれば、世界はもっと面白い場所であることがわかるようになります。そのために有効なツールとなりうるのが地政学です」
地政学の入り口は地図や地球儀を通していろいろな国を見ること
では、どうすれば子どもたちは地政学に興味を持つだろうか。田中氏は地図や地球儀を活用することを勧める。
「子どもたちに地球儀を見せながら、そこに例えば、ロシア人とウクライナ人の女性の顔写真を並べてみます。彼女らの見た目に違いはほぼありません。では、どうして同じように見える人間同士が戦争をしなければならないのか、問いかけてみるのです」
地球儀でロシアの地図を見てみると、とても広い土地の国であることがわかる。そこから子どもたちに地図上のロシアの国境線をなぞらせてみる。きっと非常に長く感じるはずだ。
「そして、この土地をロシアはどうやって守ればいいのかを考えてみます。しかし地図を見れば、簡単に守れないことは一目瞭然。なぜなら広すぎるからです。守るためには、自分たちが住んでいる所よりもできるだけ国境線を遠くに置きたい。つまり、ロシアは領土を守るために緩衝地帯(バッファーゾーン)をつくりたい。今回の侵攻も隣接するウクライナを自国の陣営に引き入れ、敵と対峙できる緩衝地帯を確保するためのものであることがわかります」
そもそも日本は地政学的に海に囲まれた島国で、外国の脅威にさらされることが少なく国際関係に関する感度が低いという。だから隣国と陸続きの国の事情や、多民族国家で紛争が頻繁に起こる理由などを理解しにくい。
だが、世界の地形は1000年前から変わっていない。それゆえ、その影響を受けた人間の基本的な考え方も変わらない。つまり、地形や地理を基にした地政学を学べば、「そこに生まれ落ちたらそうなる」という国同士の関係性や考え方が実感としてわかるようになってくるのだ。