部活動消滅の危機「学校運営だとあと10年」で厳しい状況の訳 教員の残業前提の指導、全員顧問制はもう限界

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部活動に尽力してきた教員を「地域クラブ」の指導者に

掛川市では5年後に地域展開を実施することが決まっており、モデル校も選出されている。だが全国的には、部活動改革の進展はあまり速くないのが実情だ。まずネックとなるのはやはり、各家庭の金銭的負担が増えることだろう。

「要支援家庭には補助金を出してフォローし、そうでない家庭には申し訳ないが理解してもらえるよう、説明を尽くすことが必要です。運営にはNPO法人を立ち上げるなど、家庭の金銭的負担を軽くする努力も求められると思います」

少子化により種目・クラブ間で子どもの取り合いになれば、競争原理も働く。長沼氏は「月謝と教育活動とのバランスを取って、よい指導者を確保し、仕組みを整えることができた地域クラブが生き残っていくでしょう」と予想する。

「文科省だけでなく、2021年6月には経済産業省が地域とスポーツクラブ産業についての提言をまとめました。経産省が言及するということは、そこにビジネスとして成り立つチャンスを見ているということにほかなりません。対応の早いスポーツ団体はすでに動き始めていますし、指導者向けのアプリ開発をしているところもあります」

部活動改革推進のためのもう1つのハードルは、長沼氏が「BDK」と呼ぶ「部活大好き教員」のケアだ。多くの人の思い出の中に1人は存在するのではないだろうか。とくに体育会系に多いイメージだが、部活動の指導に情熱を注ぐ教員たちだ。

「50代ぐらいの教員や保護者に多いのですが、『厳しい部活動はいいものだ』という考えを強く持つ人たちがいます。彼らは部活動の中で達成感や充実感なども味わっているので、その価値観がなかなか捨てきれない。そういった人たちを否定することなく、これからは、緩く楽しみたい人たちの希望もかなえていけるといいですね」

旧来の価値観を変えるのは難しいことだが、実はBDKの存在こそが地域展開のカギでもある。動き始めた部活動改革において、喫緊の問題は指導者が見つからないことだそうだ。長沼氏はBDKを「荒れた時代の子どもたちを更生させ、身を粉にして働いてくれた功労者たち」と評する。やりがい搾取という言葉が生まれて久しいが、BDKは問題のある仕組みの中でも、まさにやりがいを糧に頑張ってきた人たちだ。

「そうした教員たちには、何より指導者としての高いスキルがあります。地域クラブの指導に当たってもらえれば、教員にとっても子どもにとってもメリットは多くあります。ただし軍隊のような指導はNGです」

本人のやりがいはもちろんのこと、地域クラブには異動がないので継続して指導することができる。子どもたちが成長すれば、そこから次の指導者が生まれ、地域クラブの持続性が生まれる。

クラブの運営上、顧客が多いに越したことはないので、その点でも多様な年齢層が参加できることが望ましい。老若男女が通える地域クラブは生涯スポーツの質も向上させ、自治体が選ばれる魅力の1つになるかもしれない。長沼氏は「地域展開による部活動改革は、まちづくりそのものです」と話す。

「自治体のこうした形が当たり前になれば、現在は学校単位でしかエントリーできないさまざまな大会も、地域チームでの出場が認められるようになるかもしれません。保護者にもBDKの皆さんにも、結果を見せることで社会を変えていく。部活動改革を進めるには、こうした姿勢が不可欠だと思います」

今、部活動の形は過渡期にある。長沼氏は「地域展開の形で部活動が回るようになるまで、5年ほどかかると思います」という。だが地域と連携せず「学校が抱え込んでしまったら、部活動はあと10年で厳しい状況に陥る」とも続ける。教員と保護者に求められているのは、近視眼的に捉えず、活動を未来につなぐことだろう。部活動はそもそも誰のためのものかを考えれば、そう難しくはないはずだ。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:m.Taira / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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