部活動消滅の危機「学校運営だとあと10年」で厳しい状況の訳 教員の残業前提の指導、全員顧問制はもう限界

学習院大学文学部教育学科教授
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。2013年の学習院大学教育学科開設に携わり、その後も教員養成に尽力。日本特別活動学会理事・顧問、日本部活動学会副会長、日本ボランティア学習協会理事、日本シティズンシップ教育学会副会長、一般社団法人生徒会活動支援協会顧問、板橋区教育委員会委員などを歴任。現在は教科外教育(特別活動、部活動、ボランティア学習、シティズンシップ教育など)を中心に研究している
(写真:長沼氏提供)
部活動の維持は、もはや学校レベルでは対応できない問題
長沼氏が提唱しているのは単なる「地域移行」ではなく、「部活動の地域展開」だ。
「現状の学校の部活動を、そのままの形で地域に移すことはできません。地域に指導できる人材がいるとは限らないからです。指導者や活動場所を確保するためにはお金がかかるので、地域展開をした部活動は有料化されるでしょう」
金額にかかわらず、これまで無料だったものが有料になることは、なかなか受け入れられないかもしれない。保護者にはまず、無料である今の仕組み自体に問題があると理解してもらうことが重要だ。また、長沼氏は地域展開に当たって、中高生に加えて地域の多様な年齢の人が参加できる形に変更すべきだともいう。
有料になったり世代混成になったり、変更点が多いなら今のままでもいいと思う人もいるかもしれない。だが長沼氏は「部活動改革は教員のためだけでなく、子どもたちのために今から準備しておかなければならないこと」だと話す。
その最大の理由は、避けられない少子化だ。内閣府の予測によると、2020年の統計では1500万人ほどいる15歳未満の人口は、2056年に1000万人を割り込む見込み。実際の減少はこの推計よりさらに早く進むという見方もある。現在の形の部活動運営は早晩立ち行かなくなる、というのが長沼氏の考えだ。同氏が地域部活動検討委員会の長を務める静岡県掛川市でも、すでにそうしたことが起きているという。
「市内の小学校に通う6年生を対象にした調査で『学区の中学校でやりたい部活動がない』と答えた子どもは26%、4人に1人に上りました。これはやる気の有無ではなく、希望する種目の活動自体がないということです。市内には、生徒が集まらず野球部が廃部になった中学校もあるほど。過疎化の進む地域ではさらに事態は深刻です。都市部の学校では今は危機感が薄いかもしれませんが、これは日本中でやがて必ず起こることなのです」
もはや1つの学校だけで対策を講じることは難しく、教育委員会と自治体と共に、一丸となって「地域展開」に取り組むべきだと長沼氏は語る。この地域展開では「地域に必ず1カ所は、やりたい種目ができるクラブがある」という形を目指す。例えば自分が通う学校にサッカー部がなかったとしても、地域内のどこかでサッカーができる体制を整えるということだ。こうした新しい体制と現状とのクッションの役割を果たす段階的な取り組みとして、長沼氏は下記の2つを挙げた。
「方法の1つは、すでに各地の過疎地域でも実施されている合同部活形式です。1校では人数が足りなくても、近隣の複数の学校が集まることでチームを編成することができます。もう1つは拠点校方式。この学校ではバレー部、別の学校ではサッカー部といった形で、種目ごとに活動を担う学校を定めるものです。教員と生徒は、各種目の拠点校に移動して希望する内容の部活動を行います」