JRも協力、鉄道写真「草刈りプロジェクト」舞台裏 雑草を整備、指宿枕崎線「松ケ浦駅」美しく変身

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そう考えた長根氏は、SNSでつながっていた葛岡氏に松ケ浦駅の現状改善を相談。葛岡氏と葛岡氏の勤め先である中原水産株式会社の中原晋司社長がJR九州と地元の意見交換の場である「お客さま懇談会」の委員だったこともあり、その会議の場でJR九州に松ケ浦駅の持つポテンシャルと整備案を提案した。

JR九州も「よろしければ、松ケ浦駅周辺の美観整備にいっしょにご協力いただけませんか」と乗り気で、JR九州と地元が協働で取り組む松ケ浦駅周辺の草刈りプロジェクトが発足した。また、指宿枕崎線の各駅では保守の簡素化を目的にホーム上のベンチや屋根の撤去工事が進行しており、松ケ浦駅はまさに工事が始まる寸前のタイミングだった。それを知った長根氏はあわてて「松ケ浦駅の情景に屋根とベンチは欠かせない存在」と進言。安全性や利便性ではなく、景観に重きを置いた写真家の進言が聞き入れられることはまれだが、紙一重のタイミングで工事がストップした。これも柔軟な発想力を売りとするJR九州ならではだ。

同社鹿児島鉄道事業部の廣田揚亮氏は「これまでにも肥薩線嘉例川駅などで地域の方と連携した整備事業は行ってきましたが、今回の規模は初めて。貴重な前例になればと思っています。JRとしても残念ながらたくさんの時間と人を指宿枕崎線だけにかけることはできません。そんな中、こうしたご協力をいただけるのは嬉しい限りです」と話す。

草刈りのプロたちがてきぱきと作業をこなす

そうして迎えた2022年1月18日の草刈り当日。参加したのは葛岡氏ら「頴娃おこそ会」のメンバー、JR九州鹿児島支社の社員たち、地元自治会と有志、また鹿児島市喜入町に拠点を置く雑草対策に特化した有志団体「草刈りツーリズムプロジェクト」のメンバーたちだ。

作業前、廣田氏と長根氏がより良い景観にするためにはどの雑草を刈る必要があるのかを入念に打ち合わせする。雑草と言ってもJR九州が処理できるのは自社の敷地内のみで、敷地外は個々の地権者の確認が必要だ。それについては、立ち会った自治会員が許諾を担当した。

午前9時を回ると一斉に草刈りがスタート。JR九州側のメンバーは鹿児島支社総務企画課のほか、指宿枕崎線を管轄する鹿児島中央駅の社員など。その顔ぶれの中には鹿児島中央駅長の姿もある。草刈りツーリズムプロジェクトのメンバーはさすがという手さばきで、普段から沿線の整備を行っているJR九州の工務部の社員とともに、プロ級の技であっという間に大規模な雑木を片付けていく。

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