「静岡県が認めた」JRがリニア工事申請できる根拠 有識者会議中間報告は河川法の審査要件満たす

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今後、県専門部会が再び開かれると、紛糾した2019年10月4日の会議に戻って、あらためて工事中の湧水の全量戻しが議論されると見られる。しかし、難波副知事が認めているとおり、有識者会議開催によって、トンネル工事による中下流域の“利水上の支障はない”は日本を代表する研究者たちのお墨付きが得られている。

リニアトンネルは斜坑、導水路トンネルを含むと西俣川、東俣川(大井川本流で分岐点からの呼称)の6カ所を地下約400m前後で通過する。大井川168kmのうち、駿河湾から下流域の26kmを国、そこから源流部までの約142kmを県が管理する。西俣川、東俣川は県管理であり、河川内(大深度地下を含む)に工作物を新築する場合、JR東海は河川法に基づき、知事の許可を得なければならない。

利水上の支障懸念が解消し、河川法手続きが可能に

河川法許可の審査基準は、①治水上または利水上の支障を生じるおそれがないこと、②社会経済上必要やむをえないと認められるものなどであり、リニアトンネルの場合、「利水上の支障」が問題となっていた。しかし、有識者会議中間報告で、「利水上の支障」の懸念は解消されたから、JR東海は河川法の許可手続きに入ることが可能だ。

河川法の許可権限は何度か話題に上り、川勝平太知事は2018年11月19日の会見の「JRとの交渉材料に使うという姑息な考えは持っていない。法律にのっとってやる」の発言を皮切りに、法律を順守する姿勢を示している。河川法を担当する県交通基盤部河川砂防局はリニア問題の会議には出席していない。担当者は「JR東海から申請書類が提出されていないので判断しようがない。審査基準に沿って、許可を出す」と述べる。

むろん、環境に関する課題が解決していないことを理由に県が申請を退ける可能性があることも否定できないが、2年近くに及ぶ有識者会議の議論をムダにしないためにも、JR東海は今後の県との協議を前に、河川法に基づく許可申請を行うべきだ。もちろん、申請を行うにあたっては、JR東海が流域に対して、リニアトンネル工事が利水への支障がないことを自ら説明し、理解を得ることが不可欠であることは言うまでもない。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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