17音で「世界の捉え方が変わる」俳句の教育効果 俳人・夏井いつき「言葉の技術」は義務教育の間に

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「感情を言葉にできるか」は生存に関わる問題

──17音に秘められた言葉の力ですね。

人間は、言葉でしかわかり合えません。自分の感情を言葉にして伝えることができなければ、自分は世界にたった一人、というような気持ちになっていきます。誰もわかってくれない、認めてもらえないという思い込みを持つと、自分なんて消えてなくなってもいいような存在だと考えてしまいかねない。

いじめや差別も、結局は「言葉の技術」が身に付いていないことに起因すると思います。ニュアンスが伝えられないと、いきなり手を出したり暴れてしまったり。

そうならないように、少なくとも自分の思っていること、嫌なら嫌という感情や、美しいものを見たときに心にあふれてくるものを言葉にできる、そういう技術を義務教育の間に身に付けさせてあげなければなりません。

その子の生存に関わることですから、大人は言葉を育てる大切さにもっと真剣に向き合ってほしいですね。

──先生や親が、子どもたちとうまくコミュニケーションを取りたいけど取れない。そんなとき、どうすればいいのでしょうか。

子どもたちの言葉にじっくり耳を傾けることですね。私は「夏井いつき俳句チャンネル」というYouTubeチャンネルを開設し、その中で【おしゃべり俳句】をシリーズ化しています。これは、面白いなと思った子どものつぶやきを採取して(聞き取って)、俳句に仕立てるものです。「つぶやきを採取しよう」と考えていたら、いつもは忙しくて聞き流す子どもの発言をちゃんと聞くようになって、「何を思って言ったのかな」と考えるようにもなります。

──俳句の楽しさを子どもたちに伝えるには?

俳句とは「かくあるべし」と構えたら、俳句の楽しさは伝わりません。それよりも、子どものつぶやきを集めて一緒に季語を考えたり、景品目当てに俳句コンテストに応募してみたり、軽い気持ちで始めてみればいいんです。

とにかく、やってみなければ、面白さなんてわからない。だから、大人も子どもも一緒になって一句詠んでみましょう。

夏井さんはどんな先生だった?「指導案は自作自演の脚本」
──夏井さんは俳人になる前、中学校で国語の教師を8年間務められていました。そのときに心がけていたことはありますか。
授業が面白くて国語を好きになってくれたら、子どもは自発的に学ぶと思っていたので、教材研究と指導案作りを一生懸命やっていました。指導案というのは、言うなれば自作自演の脚本です。目の前に座っている生徒という観客に向かって、今日は何をどう伝えるかというシナリオを書いて、先生役を演じるわけです。
仕事というよりは、趣味の範疇になりますが、クラスごとに別々の脚本を用意して、授業の内容を変えていました。目指すゴールは同じでも、おとなしかったり、にぎやかだったり、クラスの性格は違うので、その個性に合わせた指導案を書くのは楽しかったですよ。
とても忙しい先生たちに、面白い授業を作ったり、子どもたちにしっかり向き合ったりする余裕が増えていけばと思っています。先生たちが教えることを楽しめる環境を整えてあげてほしいと切に願っています。

(文:田中弘美、企画・編集:晏 暁丹)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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