正解より「問いを立てる」人を育てるべき理由 ジーンクエスト・高橋祥子、今必要な教育とは

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「絶対にこれをやりたい」と思えることはそうそうないし、たくさんの経験の中からしか見つけられないと思います。だからこそ、そう思えたときには「たとえ最後の一人になったとしても、これを続けたい」という強い意志が生まれるのではないでしょうか。

――子どもたちが興味の範囲を広げるために、学校教育ができることはあるでしょうか。

日本の学校では正解を出すことばかりが求められますが、実社会では自分でよい問いを見つけることのほうがずっと大事です。技術の進化した今日、もはや与えられた問題を解くのは人間でなくてもいい方向に進んでいます。でもどの問いを解くのかという方向性を決めるのは、私たちがどこへ向かうかを示す意志なのです。それはどんな問いを立てるのかということと同じです。日本では大学に進むまで、こうした訓練をいっさいしないのは、とても問題だと感じています。

さらに受験では選択肢を狭めて正解を導き、点数を稼ぎますね。そもそも何のために学ぶかもわかっていないし、言ってしまえばロールプレイングゲームのレベルを上げるような単調な作業です。問いを立てられる人を育てるには、興味の幅を広げて、ほかの分野にも関心をつないであげるような教育が必要だと思います。指導者もただ暗記させるのではなく、その領域の面白さ、学びの楽しさを自ら見せられる人だといいですね。

――「そもそも何のために学ぶか」は、大人にとっても難しい問いです。

「そもそもなぜ教育が必要か」と言い換えることもできると思いますが、生物全体で見れば子どもに教育をしない動物のほうが多いですよね。生きるために必要な基本的な力の情報は遺伝子に組み込まれて生まれてくるので、教育の必要がないわけです。私たちも最低限の言語や数字の概念ぐらい組み込まれていてもよさそうですが、実際はそうではない。それは遺伝子が変化するよりも人間社会の変化のほうが速く、生まれてから学ぶほうが効率的だからです。つまり、時代の変化に合わせて学びを変えていかないということは遺伝子と矛盾しているといえる。私はそう考えています。

――社会の変化に応じて、生きている限り学び続ける必要があるということですね。

そのとおりです。研究者も自分の専門分野だけをやっていればいいわけではないし、学生時代に学んだ知識で乗り切れる時代ではありません。私が今取り組んでいるヒトのゲノムという領域も、私が学校で習った頃にはまだ教科書に載っていなかったことばかりです。私自身も社会人を対象にした生命科学のオンラインサロンを運営していますが、今や学ぶ手段はいくらでもあり、興味を持てば大人も学び続けることができるはずです。仮想通貨が話題になり始めた際は、「儲かるかも」と急にたくさんの人が勉強を始めましたよね。あのときは「生命科学にもこれぐらい関心を持ってもらえたら……」と嫉妬しました(笑)。

一方で「もっとこうしたほうがいい」という改善点がわかっても、それを実際の教育に落とし込むのはとても時間がかかるものです。今学んでいる目の前のことが社会のどんなことにつながっているのか、ほかの分野とどう関わっているのか。そうした学びのブリッジになれるような存在がいると、勉強へのモチベーションも変わると思います。

(文:鈴木絢子、撮影:尾形文繁)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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