また、大学に残って研究を続けると、その後のキャリアはポストに空きがあるかどうかで決まり、行き詰まるリスクもあると思いました。今は複数の共同研究プロジェクトで、一人でやるよりずっと多くの研究に携わることができています。私以外のケースを見ても、研究者のキャリアのあり方も変わってきているなと実感しています。

ジーンクエスト代表取締役
ユーグレナ執行役員 バイオインフォマティクス事業担当
1988年生まれ。2010年京都大学農学部卒業。13年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中にジーンクエストを起業。15年3月、同博士課程修了。世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ2018」やNewsweek「世界が尊敬する日本人100」などに選出されている。著書に『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考』(NewsPicksパブリッシング)など
目の前の学びをさらに広げる「ブリッジ」的な存在が大切
――高橋さんが遺伝子解析に興味を持ったきっかけを教えてください。
私の父は医師なのですが、自分もその道に進むかどうかを考えたくて、病院へ見学に行ったときのことです。その時ふと、「ここには病気の人しかいない」という事実に衝撃を受けました。ヒトはなぜ病気になるのか、病気になる前に防ぐことはできないのかという問いが生まれ、生命科学で予防メカニズムを研究したいと思い、今に至ります。
――ご自身の目で病院を見た経験が、研究に打ち込んだきっかけなのですね。残念なことに世間では、打ち込めること、やりたいことが見つからないという若い人も多いですよね。
日本はとても豊かなので、困ることや不足に感じることが少ないのだと思います。だから興味の範囲も狭まってくる。私の周りでは、他国の貧困を目の当たりにしたり、震災などの災害を経験したり、闘病の経験があったり、そうした「カオス」の体験によって「主観的な命題」を見つけた人が多いですね。
私は5歳から7歳までフランスにいたのですが、私だけが日本人だからといっていじめられることもなかった。違いを「すてきだね」と言ってもらえる環境だったので、反対に帰国してからの日本の教室は窮屈でした。でも、京都大学に入学してからは変わった人も多く、女子学生の一人行動も当たり前で楽になりました。同調圧力は有利に働くこともありますが、今はもうそうした時代ではありません。「みんなと同じ」を脱して変わらなければいけないと思います。
――「主観的な命題」を見つけるには、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。
とにかく必要なのは、知らないこと、やったことのないことを通して経験の幅を広げること。
留学でも職業体験でも、ただ同じ日々を過ごさないことです。身近なところでは、私は書店へ行くことをお勧めしています。ネットだと購買履歴から「読みたそうな本」を推薦してくれますが、カオスな棚の前に立ったとき、目に入った題名のワードをどれだけ知っているかどうか。知らないことばかりだということに気づくと思いますし、偶然の出合いで買った本が、新たな世界を開いてくれるかもしれません。