超進学校の高3「東大蹴って、海外大」の深い理由 開成・元校長の柳沢幸雄が語る「日米教育比較」

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グローバル時代を迎え、これまで東京大学を目指していたような生徒が海外の大学を目指すケースが増えている。では、なぜ彼らは海外の大学を目指すのか。また、日本と米国の教育はどこが違うのか。そして、グローバル時代に必要な子どもたちの能力とは何か。今回は東大、米ハーバード大学で教授として活躍し、その後、開成中学校・高等学校校長を務め、現在は東大名誉教授で、北鎌倉女子学園学園長である柳沢幸雄氏に話を伺った。

年々増加する、海外大学を志望する生徒たち

――近年、海外大学への進学を目指す生徒が増えていますが、その現状をどう見ていますか。

現在、海外進学を目指す生徒は確かに増えています。ただ、「失われた30年」といわれる平成時代の前半は、逆に留学を志す生徒の数は減少していました。なぜ減少していたのか。それは日本が居心地のよい国だったからです。何もわざわざ海外に出なくとも、日本で将来に対する開けた展望や夢を持つことができたのです。

歴史的に見ても、「今いる場所」で将来の展望を見いだせないとき、若者たちは「外」を目指してきました。例えば、1964年の東京オリンピックの頃です。60年代、映画『三丁目の夕日』でも描かれていますが、中学を卒業して地方から都会に働きにくる若者がたくさんいました。「金の卵」と言われた彼らは、新しい産業の担い手として、言葉も食べ物も習慣も違う地方から、将来の展望や夢だけを頼りに東京にやって来たのです。

しかし、その背景には地方の農村が疲弊している一方、子どもの数は多く、地元で暮らしていても将来の展望を描けないという切なる事情があった。だったら「都会へ出よう」と、そこを飛び出してきたのです。

――なるほど。都会には夢があったのですね。

その後、日本は高度成長期を経て80年代後半からのバブルに象徴されるように「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われる時代を迎えました。当時は海外より日本のほうが輝いていたんですね。だから、海外に出る若者も少なかった。最近の若者は海外に出る気概がなくなった、と嘆く人もいました。しかし、90年代後半から失われた30年の時代が到来する中で、このままの日本では、自分の未来を開けないという思いを持った野心ある若者、あるいは好奇心の強い若者たちが、再び海外へ出ていくようになった。そうしたサイクルが日本では50年置きに起きており、それだけ日本は浮き沈みを繰り返しているのです。将来の輝く展望が描けないとき、若者は外に、国内であろうと国外であろうと出ていこうとするものなのです。今もそうです。日本国内では、将来のキャリアや将来の展望を描けないからこそ、海外を目指している生徒が増えているのです。

――最近の特徴として、国内の大学に進学してから海外の大学院を目指すのではなく、高校から直接、海外の大学への進学を目指す若者が増えています。

大学院から進学するのと、大学の学部から進学するのとでは、その効果も大きく変わってきます。大学院から進学する学生は、自分の専門分野がほぼ決まっており、その学問分野の基本概念は学部時代に出来上がっています。いわば、日本語で概念形成が成されているわけです。一方で、高校から大学の学部に進学する学生は、まったく新しい学問概念を外国語で身に付けることになります。そこがいちばん大きな違いなのです。

――そうなると、どのような効果が生まれるのでしょうか。

実は大学の学部教育において、世界でも自国語で教育できる国は限られています。例えば、欧州のスカンジナビア半島にあるスウェーデンやノルウェーは先進国ですが、人口が少ないため教科書のほとんどは英語です。また、発展途上国においては、人口は多いものの大学進学率は低く、こちらも自国語のテキストはありません。

世界を見ても、高度な学問を自国語で教育している国は、日本のほか、米国、英国、ロシア、中国、フランスくらいしかない。その点では日本は優位にあると思われるかもしれませんが、その一方で日本は国連の常任理事国ではなく、国際政治の主要なプレーヤーになりえていません。主要国と比べ、そもそも世界へアプローチしにくい国のもとで、自国語でしか学問形成できていないということは、優秀な若者にとっては、世界で活躍するうえで大きなハンディキャップとなるのです。だからこそ、グローバル時代といわれる中、学問の概念をできるだけ多く外国語で身に付ける経験が重要になってくる。その意味でも、私は学部段階から海外に進学することを勧めているのです。

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